ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 476 2023-09-26

地域未来基盤としての医療の役割:
社会医療法人恵仁会(長野県佐久市)のケーススタディ

坂口 一樹

清水 麻生

森 宏一郎

 

ポイント
◆医療が持つ社会インフラとしての機能はどのように発揮されているのか。 医療機関はどのように地域社会を活性化し、産業として地域経済に貢献し ているのか。これら2つの問いへの仮説的な回答の構築を目的に、医療が 有する社会インフラとしての機能と産業として地域の社会経済に貢献する 役割の双方に着目し、長野県佐久市中込地区の社会医療法人恵仁会の地域 活性化とまちづくりの取り組みを対象としたケーススタディを行った。 
◆医療法人本体へのインタビューに加えて、同地域の地域活性化・まちづくりのキーパーソンが所属する複数の組織にインタビューを行い、医療が担っている/医療に期待している機能と役割について、多角的な視点から、重層的に描出した。併せて、取得した質的データを対象にテキストマイニング分析を実施し、客観的視点からの事例の全体像を把握した。
◆恵仁会くろさわ病院は、かつて栄えた地元商店街の復活と地域活性化に取り組んでいる。佐久地域に根差す農村医療の伝統と通底するのは、人々の生活の場に医療が乗り出し、住民にとって不可欠なインフラとして地域の社会経済に貢献するという医療提供者の姿である。その象徴的取り組みが、病院の移転新設に伴う、駅前デパート廃墟の再生である。新病院には市の公共施設が併設され、駅前に新たな人流を産み出している。また医療法人の関連施設が商店街にテナントとして入居し、商店街組合の一員として街のイベントやまちづくりに直接参画している。さらに市の産業振興の仕組みを活用し、地域の医療機関と地場の製造業が連携して医療介護関連製品の研究開発に取り組み、これまで複数の開発成果を出してきている。
◆本事例は、医療がインフラとして機能と産業としての役割の双方を果たしつつ、地域の社会経済の活性化に貢献している好事例と評価できる。今後の商店街再開発計画に加え、地域資源と医療機関の連携が深まることで、取り組みのさらなる進化が期待できる。地域の未来基盤となる医療者の取り組みに引き続き注目していきたい。

WP476

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