ワーキングペーパー
ワーキングペーパーNo. 367 2016-10-19
医療機関・医師会館等における
建設セカンドオピニオンのフォローアップに関する研究
〜医療関連施設の建設セカンドオピニオンと
建設環境に関する提言・課題〜
畑仲 卓司、尾崎 孝良、(一般社団法人)建設セカンドオピニオン医療機構
① 本研究の背景・目的
「建設セカンドオピニオン」の研究を始めた背景は、平成 15 年当時から、医療機関の建設単価は高いのではないか、すなわち多少特殊な建物であるにしても、通常の建物に比べて高いのではないかというのが発端である。このため、2003 年(平成 15 年)~2015 年(平成 27 年)、特に 2008 年(平成 20 年)~2015 年(平成 27 年)にかけての、建設セカンドオピニオン実施実績・事例や今後の建設を取り巻く環境変化等から、建設セカンドオピニオンを進めるに際しての課題を中心に抽出するとともに、その対応策等について提言を行うことを本研究の目的とした。
② 建設セカンドオピニオンの実績
2003 年(平成 15 年)~2015 年(平成 27 年 8 月)までに行った建設セカンドオピニオンの実績は、合計で 111 件に上る。
この合計数は、(1)日医総研における建設セカンドオピニオン方法論の研究、(2)医療機関・医師会等による建設セカンドオピニオン医療機構等との有償の個別契約に基づく業務、(3)建設セカンドオピニオン医療機構の無償協力による相談・指導等の対象であったものの合計である。
③ 2008 年(平成 20 年)~ 2015 年(平成 27 年)における建設セカンドオピニオン事例の概要
2008 年(平成 20 年)~2015 年(平成 27 年)にかけての事例の内、参考になると考えられる建設セカンドオピニオンの事例の建設手法や課題は、次のような6つの分野に分類した。
1) | 事業効率化に関する事例 |
(1) 事業主体の組合せの事例 | |
(2) 施設機能の組合せの事例 | |
2) 医師会内での検討プロセス・前提条件検討等に関する事例 | |
3) デザインビルド方式といった新たな建設方法等に関する事例 | |
4) 建設後のトラブル・課題に関する事例 | |
5) 建設セカンドオピニオンを実効性あるものにするための条件に関する事例 | |
6) 今後の課題となった事例 |
④ 建築設計・監理等業務委託契約書等の変更について
建設セカンドオピニオンにおいては、医療機関等の設計事務所との契約に際して、四会連合協定(公益社団法人 日本建築士会連合会、一般社団法人日本建築士事務所協会連合会、公益社団法人 日本建築家協会、一般社団法人 建築業協会)による契約書等をもとに、これを加筆修正した契約書等で契約することを推奨している。
このため、建設セカンドオピニオンの実際の提供作業の中で修正した、平成 25 年版及び 21 年版の契約関係書類の加筆修正の内容について、その主要なポイントについて示した。
⑤ 建設セカンドオピニオンをテーマとする日医総研地域セミナーの実績
2006 年(平成 18 年)より、日医総研における建設セカンドオピニオンに関する研究実績が蓄積されてきたことから、主に医師会会員を対象にした建設セカンドオピニオンをテーマとする「日医総研地域セミナー」の開催を開始した。そして、その後の建設セカンドオピニオンの実績も踏まえつつ、平成 27 年まで 12 回開催した。
⑥ 今後の建設を取り巻く環境の変化
今後の建設を取り巻く環境の変化として、建設セカンドオピニオンの当初の目的と最近の建築業界の状況の違いや、改築・耐震改修等による耐震性向上の規制と、建築物への省エネ基準の導入といったことがあり、これらへ対応することが求められる。
2011 年東日本大震災以後、建築業界の状況は一変し、さらに 2020 年東京五輪の開催決定がそれに拍車をかける結果となっている。すなわち、現状の建築業界は職人不足による労賃の上昇と、円安などに伴う建築資材のインフレ的な傾向が強まり、以前では考えられないほど建築工事費のコストがアップしている。
「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が平成 25 年 11 月施行され、病院、店舗、旅館等の不特定多数の方が利用する建築物及び学校、老人ホーム等の避難に配慮を必要とする方が利用する建築物のうち、大規模なものなどについて、耐震診断を行い報告することを義務付けし、その結果が公表されることとなった。
また、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が、平成 27 年 7 月 8 日に公布され、基準とするエネルギー消費性能への適合義務とその届出等の「規制的措置」については公布の日から 2 年以内、容積率特例、表示制度等の「誘導的措置」については公布の日から 1 年以内に施行予定である。
⑦ 考察 ~医療関連施設の建設セカンドオピニオンと建設環境に関する提言・課題~
「2009 年(平成 21 年)~2015(平成 27 年)にかけての建設セカンドオピニオンの事例実績」、及びそれに伴って必要とされた「建築設計・監理等業務委託契約書等の変更」や、「日医総研地域セミナー」の実施、及び「今後の建設を取り巻く環境の変化」の検討等を考察することにより、次のような「医療関連施設」の「建設セカンドオピニオン」と「建設環境」に関する「提言・課題」を示す。
<1) 医療関連施設の建設セカンドオピニオンに関する提言・課題>
(1) 発注者側(医療側)に対する建設バブル拡大期における基本的取組方法の周知等
(2) 設計事務所のコスト・コントロール能力や設計能力の問題と様々な対応方策の動員
(3) 小規模建築物の診療所を設計する設計事務所の設計能力の劣化
(4) 発注者(医療側)への建設発注に際して最低限必要な知識の周知徹底
(5) 発注者(医療側)への土地購入・貸借段階での瑕疵担保契約内容に関する周知・指摘
(6) 建設セカンドオピニオン導入に際して最低限必要なガイドラインの周知
(7) 「民法」改正への建築設計・監理等業務委託契約書等修正対応
(8) 頻繁に改正される四会連合協定建築設計・監理等業務委託契約書修正作業の継続
(9) 「建築物の省エネ基準導入」への対応体制整備のチェック
<2) 医療関連施設の建設環境に関する提言・課題>
(1) 耐震化の遅れている民間医療機関への改築・耐震改修支援強化
(2) 医師会館等災害対応拠点施設に位置づけられる医師会館等への改築・耐震改修支援強化
(3) 設計・施行分離発注が可能となる行政における補助金等交付時期の前倒し等
(4) 民間医療機関の建設単価に影響する国・自治体等公的医療関連施設建設単価の低減
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