ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 264 2012-10-18

2010年・2011年 診療所等における
地球温暖化とエネルギー対策のフォローアップ研究

 

  • 本研究は、私立診療所(設置者が国・地方自治体・国立大学法人・独立行政法人等を除く診療所、以下「診療所」ともいう)における、エネルギー消費やCO2排出実態等をアンケート調査した結果を中心に、地球温暖化対策等について検討したものをとりまとめたもので、併せ診療所と病院(別途研究)全体の実態把握も目指した。
  • また、上記実態調査結果をもとに、医療経営に影響する電力の費用負担負担面からのエネルギー対策についても、分析・検討を行った。
  • 診療所の評価軸であるCO2排出原単位(評価目安を対前年−1.0%)は、2010年度 65.7㎏- CO2/㎡で、対前年比で1.2%増加したが、2009年度の対前年比が-1.2%であったことから、基準年である2008年度に対してはプラスマイナスゼロという状況である。(表2-1-1、ページ10)
  • 2010年度対前年比でCO2排出原単位が増加した理由としては、無床診療所のエネルギー消費原単位が対前年比で大きく増加したためである。すなわち、2010年度のエネルギー消費原単位対前年比は、有床診療所が−6.2%であるのに対し、無床診療所はこれを上回る15.0%増となっていることが影響している。(表2-1-1、ページ10)
    すなわち、その背景に2010年度は平年より夏が猛暑で冬は非常に寒かったことにより、無床診療所の省エネ対策以上に電力消費が高まったこと、及び有床から無床への転換診療所(施設規模はそのまま)の存在等が考えられる。
  • 診療所におけるCO2排出量(総量)は、2008年度231.1万t-CO2(100.0%)に対し、2010年度は243.8万t-CO2(105.5%)と5.5%増加した。またエネルギー消費量も、2008年度51,049TJ(100.0%)に対し、2010年度は54,320TJ(106.4%)と6.4%増加しており、これらの削減を図ることが課題である。(表2-1-1、ページ10)
  • 診療所全体のエネルギー消費量(総量)の内、有床診療所は17,560TJ、無床診療所は36,759TJと、無床診療所が全体の約2/3を占めている。(表2-1-1、ページ10)
    同様に、診療所全体のCO2排出量(総量)の内、有床診療所が80.6万t-CO2、無床診療所は163.2万t-CO2と、前記同様無床診療所は全体の約2/3を占め、無床診療所を中心に削減対策を多様な視点から進めることが課題である。
  • 診療所と病院合計のCO2排出量(総量)は、2008年度949.9万t-CO2(100.0%)に対し、2010年度は1,023.5万t-CO2(107.7%)と7.7%増加した。また、2010年度病院のCO2排出量は診療所の約3.2倍である。(表2-1-2、ページ13)
    そして、CO2排出量の要因となるエネルギー消費量(総量)は、2008年度200,915TJ(100.0%)に対し、2010年度は218,522TJ(106.4%)と8.8%増加した。また、2010年度病院のエネルギー消費量は診療所の約3.0倍であり、病院における地球温暖化対策の重要性が明らかになった。
  • 2010年度のエネルギー消費原単位とCO2排出原単位における、診療所特に無床診療所における電力への依存度(全体のエネルギー消費やCO2排出に占める電力の割合)87.4%、82.3%は、病院の電力への依存度67.1%、59.5%に比べて高く、計画停電や電気料金値上げ等による診療所への影響の大きいことから、診療所における計画停電や電気料金値上げ対策が図られることが課題である。(表2-2-2、ページ15)
  • 診療所における「現在行っている省エネルギー活動」について、2010年度の上位10項目と20項目の平均実施率(実施中の割合)を2009年度と比較した場合、2009年度が62.6%・47.3%であったのに対し、2010年度は70.0%・54.0%と、2009度に比べいずれの実施率平均も増加している。しかし、2010年度CO2排出原単位が対前年比で1.2%増加していることから、今後とも一層こうした活動を進めていくことが必要である。(表2-4-1、ページ24)
  • 東京電力は、規制部門の電気料金値上げについては、2012年7月25日の国の値上げ認可を得て同年9月1日よりこれを適用し、また自由化部門についても、規制部門の認可条件を適用するとしている。(表2-5-1、ページ29)
    その値上げ率は、規制部門で8.46%、また自由化部門についても14.90%にも上る大幅なものである。(表2-5-1、ページ29)
    電気料金値上げによる診療所及び病院への影響を試算すると、平均的診療所の値上げ率が11.18%、平均的病院は12.67%と非常に大きなものである。(表2-5-4、ページ35)
    この値上げは、医療面等からみて様々な問題があり、診療報酬や料金面等で医療への配慮がなされるべきである。(ページ30〜33、46)
  • 再生可能エネルギーの固定価格買取制度が2012年7月1日より開始されたが、この制度は多くの問題を抱えている。(表2-5-5、6、ページ39)
    この制度による再生可能エネルギー賦課金を試算すると、「診療所」は導入1年目1.9万円(当初の電気料金に対する比率1.0%)であったものが、10年目23.6万円(同12.7%)まで大きく増加する。また「病院」は、1年目に57.6万円(同1.2%)であったものが、10年目は702.9万円(同14.4%)まで大きく増加する。(表2-5-7、ページ42)
    このように、再生可能エネルギー賦課金の将来的な伸びは大きいことから、内閣府の「2012年度 年次経済財政報告」でも指摘しているように、国にあっては大幅な見直しを早急にすべきである。(ページ37)
  • その見直しは、①2013年以降のエネルギー基本計画等の中での再生可能エネルギー電気の位置づけ等を明らかに、②医療は公定価格であるため価格転嫁することが出来ず、賦課金の免除措置又は診療報酬上の措置を講ずべき、③現在の課題はベース電源供給力の低下で、これに対応し中長期的に火山国である我が国の特性を考え、コスト的にも安い地熱発電等を再生可能エネルギーの中心にすべき、といった点を踏まえるべきである。(ページ47)
    また併せて、「技術革新」や「適正な価格の査定と入札制度の導入」、或いは「国際的に低廉な人件費の活用」といった面から、コスト削減等の「政策的誘導」の目標を設定すべきである。(ページ47)

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