ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 315 2014-05-26

病院における地球温暖化対策自主行動計画フォローアップ報告
-病院業界は自主行動計画目標を十分達成した、
国等はエネルギーユーザー側のコスト等負担の軽減を-

 

  1. 本研究は、厚生労働省から求められる「病院における地球温暖化対策自主行動計画フォローアップ報告」に資するために行われた、2013 年版 (2012年度実績)の研究である。
  2. 2012 年度 CO 2 排出原単位の減少と目標の達成
    2012 年度の CO 2 排出原単位の実績は、前年の 2011 年度比で 1.9%減となり、目標とした年率 1.0%減を大きく上回って減少し、基準年度 2006 年度(100.0)比では 82.1(年率 3.23%削減)となり、年率平均でも目標とした 1.0%減を大幅に上回ってこれを達成した。(ページ 1-1、表 1 参照)
  3. 2012 年度 CO 2 排出原単位の大幅な減少の要因
    CO 2 排出原単位は、2007 年度以降対前年比 1%以上の減少を続けてきており、一旦 2010 年度に対前年度増加に転じたが、2011 年度以降再び減少に転じた。こうした減少に転じた要因としては、下記の点が主要な要因と考えられる。
    1) ピーク時の電力供給力不足に伴う節電対策の要請
    2) 長期にわたる省エネへの取組み
    3) 重油・灯油から電気、ガスへのエネルギー転換工事の実施
    4) 重油・灯油のエネルギー消費原単位(MJ/m2)の減少
    5) 原油価格の上昇
  4. CO 2 排出量全体(総量)の大幅な減少
    このような減少要因の結果、2012 年度の CO 2 排出量全体(総量)も対前年度比 2.0%減少し、2006 年度(基準年)の 817.0 万t-CO 2 に対し、2012 年度は 740.9 万t-CO 2 で、対 2006 年度(100.0)比は 90.7 と大きく減少した。 (ページ 1-1、表 1 参照)
  5. 医療業界ではコントロール出来ない電力の CO 2 排出係数が高まる問題
    しかし前年度報告でも指摘したように、東京電力福島原子力発電所事故の影響により、電力における CO 2 排出係数はさらに高まり、これまでのような電力依存度を高めることに大きな課題が生じている。(ページ 1-4、表 2参照)
    すなわち、電力における CO 2 排出係数の高まりは、医療業界ではコントロール出来ない問題であり、ひとえに電気事業者の責任の問題である。また今後安価なシェールガスが米国より導入されれば、こうしたガスや石炭を中心とした化石燃料への依存度が再び高まることも予想される。国民の命を預かる医療の立場から、地球温暖化対策に積極的に取り組んできた医療側として、今後の動向を慎重に見守ることが必要である。
  6. 新たなJ-クレジット制度の制定
    2013 年 4 月から「J-クレジット制度」が制定され、このクレジットとして認証してもらえる CO 2 排出者は、自主行動計画へ参加しないという制限はなくなり、民間病院等自主行動計画に参加する CO 2 排出者も、このクレジット制度を利用できることとなった。
  7. 国において京都議定書約束期間後の方針を明らかに
    京都議定書に基づく温室効果ガスの排出削減等の目標達成計画は、2012年度末に終了することとなった。しかし、国において京都議定書約束期間後の地球温暖化対策の方針が、明らかになっていないため、早急に病院等の地球温暖化対策実施事業者の意見を十分ふまえ、国の方針を明らかにすることが求められる。
  8. 地球温暖化対策の推進には病院等エネルギーユーザー側のコスト等負担軽減が不可欠
    電気・都市ガスや再生可能エネルギーにおいて、ユーザー側からみたエネルギーコスト負担面で問題がある。このため、中央環境審議会や産業構造審議会等で、供給されるエネルギーのコストが適正かどうか評価するとともに、ユーザー側のコスト等負担軽減策を導入することが不可欠である。(ページ 1-5、6、図 1、2 参照)
  9. 再生可能エネルギー「固定価格買取制度」の様々な問題
    2012 年より導入された再生可能エネルギー「固定価格買取制度」は、当初より多くの問題を抱えた制度であり、現在もその問題は依然として解消されていないことから、下記のような問題の解消が求められる。(ページ 1-6、表 3 参照)
    1)電気事業者や電力関連メーカーの言い値に近い、競争原理が働かない調達価格の問題。
    2)5 人という非常に少人数の「調達価格等算定委員会」において、税金のような性格を持つ賦課金や再生可能エネルギー発電事業者の調達価格を、実質的に決定している問題。
    3)再生可能エネルギー種類別のコストパフォーマンスが考慮されない調達価格の問題。
    4)今後の原子力発電の方向性が見えず、ベース電源の確保が必須の状況にある中、再生可能エネルギーによる発電はこうしたベース電源を補うものであるべきだが、これに対応していない問題。
  10. 改正省エネ法の問題点・疑問点
    「エネルギー使用の合理化に関する法律の一部を改正する等の法律」(改正省エネ法)が、2014 年(平成 26 年)4 月 1 日から施行されることになった。しかし、地球温暖化対策の視点からみた場合、多くの疑問点や問題点があり、国は地球温暖化対策を推進する視点からその問題点・疑問点をクリアにしていくことが望まれる。

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