ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 343 2015-06-12

将来の人口動態等に基づく医療費推計:5つのシミュレーションから

坂口 一樹

 

  • 本ワーキングペーパーでは、年齢階級別の1人当たり医療費の伸び率を加味しながら人口動態の推移予測を反映させる手法で、5つのパターン別に将来の医療費推計(2015-2040年)を行った。同じく5つのパターン別に、推計の対象とした25年間において、どの程度の国費が節減可能かの推計を行った。
  • 現状の1人当たり医療費の伸びのトレンドが継続した場合、2040年の推計医療費は53.3兆円である。2015年以降、20歳以上のすべての年齢階層の1人当たり医療費の伸びを抑制できた場合の2040年の推計医療費は45.2兆円である。後者の場合、前者と比べて25年間(2015-2040年)で節減可能な国費投入額は26.0兆円である。
  • 推計結果を踏まえ、(1) 今後四半世紀にわたって1人当たり医療費の伸びを抑制したとしても、国家財政に与える効果としてはきわめて限定的なものであると認識すべきこと、(2) それでも伸びを抑制するというならば、40-74歳の年齢層にターゲットを絞り、生活習慣病やうつ病、運動機能低下等のリスク低減のための予防医療・健康増進を中心に、医療の質に関わる数値目標を定めて1人当たり医療費の伸び抑制に取り組むべきであること、の2点を提言した。
  • つまるところ、医療に投入される国費を単にコストと捉えて抑えようとしても、節減できる額はたかが知れている。むしろ医療に投入される国費を社会全体の生産性および安心感の向上のための投資と捉え、コスト削減のために費やしていた政策的リソース(特に人材)を他に振り向けるべきである。

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