ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 354 2015-12-08

「第 20 回 医療経済実態調査(医療機関 等調査)報告」についての
分析と考察

前田 由美子

 

  • 一般病院
    • 国公立も民間病院も損益差額率が低下した。
    • 民間病院では、医師給与が低下するなど給与水準は抑制されているが、給与費率が上昇している。給与単価は押さえているものの、コ・メディカル等の要員数の増加に見合う収入がなかったものと見られる。
    • 安全性に係る指標が低下したほか、借入金の返済が厳しくなっている。
    • 民間病院では 7 対 1 の赤字がもっとも大きくなった。また、大規模病院で赤字が深刻化した。2014 年度の診療報酬改定での、消費税率引き上げに伴う補てん不足もあると考えられる。
  • 診療所
    • 全体で減収減益であり、特に医療法人では院長給与を引き下げているが減益になった。
    • 損益差額率低下の要因のひとつは給与費率の上昇にある。診療所では患者職員、事務職員の給与費が上昇している上、職員数自体が増加している可能性もある。
    • 在支診は他に比べて医業収益の落ち込みが大きく、損益差額率も小さい上に、さらに低下した。
  • 医療機関経営は厳しいが、賃金・物価が停滞しており、これを踏まえて決定される診療報酬も抑制されてきた。ただ、その背景には、医療・福祉の給与費の低迷もある。医療・福祉従事者数が増加している中、給与費が下がっているので、全産業の平均給与を押し下げており、これを踏まえて決定される診療報酬や介護報酬も上がらず、さらに医療・福祉従事者の給与を引き上げられないという循環に陥っている。医療・福祉分野の経営を安定させ、雇用改善を図らなければ、超高齢社会にむけて医療・福祉分野の従事者を確保することが困難になり、医療難民や介護難民、介護離職の問題も解消しないのではないだろうか。

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