ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 359 2016-03-30

公的年金の積立金運用動向に関する考察
—運用の見直しのリスクと影響、内在する問題点—

石尾 勝

 

  • 公的年金の積立金の活用は、我が国の社会保障の確固たる財源として見込まれている。
  • 積立金運用を担っている年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が管理する資産額は約137.5兆円(2015年度末)で、公的年金の運用ファンドでは世界一の規模である。
  • GPIFの過去の運用結果は、アベノミクスによる株高等もあり、良好なものになっているが、運用に内在するリスクを考えれば、今後もプラスの成果が確実に得られるとは限らない。リーマンショック並みの市場調整が起これば、損失は▲26.2兆円になる。これは消費税・所得税収や医療給付費等より大きく、今の運用が内在するリスクは大きい。
  • 積立金の運用は制度的に年金財政が要求する目標利回り(対賃金スプレッド)を上回る必要があり、リスクをとって運用しその収益で年金財政を維持する政策がとられている。
  • 万一、運用が想定通りに成果があがらなかった場合、国民に約束した最低限の給付すら賄うことができず、保険料の引き上げか年金給付の削減という形で、国民がその代償を払わざるを得なくなる可能性がある。
  • GPIFの現在の「基本ポートフォリオ」は2014年10月に変更され、リスクの高い株式割合が大幅に増えているが、これはアベノミクス・成長戦略の積立金活用政策による面が大きいが、積立金の運用の原点は「長期的な観点からの安全かつ効率的な運用」であり、少なくとも現行以上のリスク運用への傾斜は控えるべきである。
  • 積立金の目的は将来の年金給付を確保することであり、政府の時々の経済政策や株式等の金融市場テコ入れのために用いるのは筋違いである。政府は公的年金の制度運営の「受託者責任」を果たさなければならないにもかかわらず、国民への十分な説明が不足している。
  • 政治や政策に左右されない組織として専門性が高く信頼できる管理運用体制を築くことが大事である。

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