ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 360 2016-04-15

2016年度の社会保障関係予算と
診療報酬改定および経済成長との関係

前田 由美子

 

  • 今後の社会保障費確保の検討に資すること、医療機関の経営計画への参考情報を提供することを目指して、2016 年度予算について社会保障関係費を中心に整理した。後者については、医療機関経営の原資が診療報酬はもちろん、地域医療介護総合確保基金にも広がっていることを踏まえ、国の予算の動きを理解していくことが大事になっていると考えている。

  • 社会保障関係費について大胆にまとめると次のようなことがいえる。
    1. 社会保障 4 経費は、消費税収(国分)を充てるべき経費であるが、消費税収(国分)は大きく不足している。今のところ、不足分は消費税収以外の財源(他の税収、赤字国債)で対応しているが、消費税は社会保障目的税化しているので、今後も他の財源を活用できる保証はない(そもそも社会保障目的税化が妥当なのかという議論もある)。
    2. 消費税率の引き上げがある年は、社会保障の充実分から診療報酬・介護報酬改定財源を捻出できる。消費税率の引き上げがなかった 2016 年度は、診療報酬改定財源を消費税収以外の財源から賄った(が、他財源の活用も難しい)。
    3. 健診や予防に関する費用は、財源に紐がついていないので、消費税率の引上げとは別に対応できる。他の財源が潤沢というわけではないが、予防、健康づくりは今後の可能性があるキーワードのひとつである。
    4. 社会保障費(国庫負担)の抑制は、社会保障支出の削減だけでなく、収入(負担)面の制度改革でも達成することができる。
  • 2017 年 4 月 1 日に消費税率が 10%に引き上げられた場合、一定の社会保障充実財源を確保できる。ただし、2017 年度は診療報酬改定がないので、医療機関経営の真水に充当することはできない。診療報酬以外(医療・介護でいえば地域医療介護総合確保基金、地域支援事業(認知症対策)、難病・小児慢性特定疾病など)は可能性がある(この部分は憶測である)。

  • 2017 年の消費税率 10%への引き上げが最後の引き上げだとすると、2018年以降は引き上げがない。消費税率 5%時点からの増収分を充てた分は今後もスライドするとしても、新たに追加すべき社会保障充実財源をどう確保するのかが課題である。

  • 産業としての医療・福祉は大きなポジションを占める。社会保障分野に財源を投入すれば、医療・福祉従事者の処遇が改善される。新たな雇用が創出されるとともに、子ども・子育て支援、介護離職などにも対応できるし、消費拡大にもつながる。雇用が改善すれば社会保障費の自然増も抑制される。社会保障への財源の投入は、経済成長にも寄与していくという視点を持ちたい。

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