ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 363 2016-06-23

小児医療の現状と今後に向けての提言

 

  • 日医総研では、少子高齢社会における子どもの健やかな成長を支えるための地域の小児医療提供体制の充実に資するため、2003年「小児医療のグランドデザイン(日本小児科医会からの受託により作成)」との比較も踏まえて、小児医療や子どもを取り巻く養育者の状況、子育て環境についての国内外の現状把握を行い検討した。
  • 30年の間に、子どもがいる世帯や子供の数は大きく減少した。1986年には半数弱を占めていた子どもがいる世帯は、2014年には2割程度にまで減少していた。共働き世帯やひとり親世帯の増加、若い母親の地域との繋がりの希薄化、子育て等に関する情報も限られたソースに頼る傾向から来る育児不安、児童虐待の認知の高まりなど、様々な子育てにおける課題がみられた。
  • 子どもの人口や子育て世帯数は減少しているものの、特に外来においては受療率が上昇傾向にある。小児科医の年齢上昇や、他科を主たる診療科としながら小児科も診療する医師の減少等により、小児科診療を行う医療機関に患者が集中する傾向もみられた。さらに、最近では共働き世帯の増加による時間外診療等のニーズの必要性は一定程度見込まれる。医療提供側も、こうした現状を織り込んだ上での時間外診療や初期救急・二次救急の対応、かかりつけ医と小児科専門医との連携の仕組みの構築など、地域の実情に合わせた対策を講じる必要がある。
  • 子どもの医療費助成は全国の市区町村に普及し、2003年調査時と比べ、対象年齢も大きく引き上げられた。一方でその支給基準は、年齢や所得状況、さらには一部負担の有無などの点において、所在地によってばらつきがあり、さらなる標準化も必要であろう。最近の子育て世帯は、母子家庭を中心とするひとり親世帯の増加もあり、経済的に困窮している割合が増えている。子どもの貧困率が16.3%に達するなど、厳しい経済状況の家庭も一定数存在する。少子化対策の一環としても、家計の余力のなさに阻害されない普遍的な医療費助成制度は、今後も必要である。
  • 予防接種は、これまでも様々な感染症の発生や流行から予防し、子どもや地域社会全体を守る重要な感染症対策の手段である。母子健康手帳の発行とともに、2013年の予防接種法の改正で新たに3つのワクチンが定期接種項目に位置づけられ、2016年10月からB型肝炎ワクチンも定期接種化される。一方で、他の先進国と比べ、定期接種項目が少ない「ワクチン・ギャップ」というわが国特有の問題があり、引き続き問題の解消に向けた十分な取り組みが必要である。
  • これからの小児医療に関わる「かかりつけ医」は、疾患の治療にとどまらず、子どもの生活習慣、成長とともに生じる健康に関する疑問や悩み、養育者の育児不安の解消のためのアドバイスなど、身近で頼れる存在としての役割が大きな比重を占めることになる。そのうえで、地域のかかりつけ医が後方支援する地域の子育て支援センターである「日本版ネウボラ」を整備することは、子どもの育ちを地域全体で見守ることのできる社会の実現に繋がると考えられる。
  • 2016.07.08 正誤表があります。

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