ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 365 2016-09-14

公的年金の積立金運用に関する考察(追加分析)
—現行の運用に内在するリスク・課題—

石尾 勝

 

  • 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の現在の「基本ポートフォリオ」ではリスクの高い株式割合が大幅に増えており、運用に内在するリスクを考えれば、今後もプラスの成果が確実に得られるとは限らない。
  • 運用損失に関しては「一時的な「評価損」であって基本的に問題ない」とされるが、我が国の公的年金の置かれた現状を鑑みれば、適切と言えない。
    我が国の年金財政は、大幅な運用損失⇒積立金の減少に耐えられる「金額的余裕」は無い上、拡大する社会保障支出のための「時間的余裕」も少ない。
  • 社会保障の需要が持続的に拡大し、「2025年問題」への対応が課題となる中、積立金が大きく毀損してしまえば、悪循環が生じ、 政府が想定した通りには、将来の財政運営が円滑に運ばなくなる可能性が高い。
  • もし積立金の運用が失敗した場合に、『年金保険料の追加引き上げ』か『年金給付の削減』によって、収支の帳尻をあわせることが考えられる。
    仮に、年金給付削減となれば、日々の医療費負担もままならなくなり、国民の健康格差が拡大し、社会全体に跳ね返る恐れがある。
  • GPIFの「定期検証」は、『現行の基本ポートフォリオは見直す必要がない』と結論している。しかし、以下の様な疑問や懸念がある。
     ・前提となる期待リターンや経済変数に楽観的な数字が用いられている。
     ・積立金未達確率が低下したのは、検証の起点において積立金の「発射台」が高かったためで、未達確率の低下が将来的に確定したわけではない。
     ・「全額国内債券ポートフォリオ」と比べて、「基本ポートフォリオ」の妥当性を語るのは、説得力に欠ける。
  • 現行の積立金運用について、改めて、以下の様な問題点を指摘する。
     ・運用が想定通りに行かなかった場合、『年金給付の削減』等を余儀なくされる
      可能性を考えると、リスクを減らした運用のあり方を考えるべきである。
     ・積立金の運用が首尾よく行われるかどうかは、医療・介護も含めた社会保障全般 や国家財政に多大な影響を及ぼす恐れがある。
      政府は、積立金運用に関して、国民への説明責任を十分果たして上で  行うべきである。
     ・公的年金を運用する組織・ガバナンスは、時々の政策等に左右されることの無い、専門性が高く、信頼できる管理運用体制を築くことが肝要である。

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