ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 373 2016-11-18

国立・公的医療機関等の経営状況
-地域医療構想との関係から-

前田 由美子

 

  • 2016 年 11 月 11 日現在、47 都道府県中 31 都府県で地域医療構想を策定済である。地域医療構想策定済の都府県では、今後、調整会議での協議に入る。
  • 地域医療構想は病床削減の仕組みではないが、病床過剰地域の公的医療機関等に対しては、都道府県知事が非稼働病床の削減を命令することができるなど、地域医療構想の下で公的医療機関等の医療提供体制が大きく動く可能性がある。
  • 公立病院は、「新公立病院改革ガイドライン」にもとづき、各病院が改革プランを策定している。同ガイドラインは、各病院の改革プランと地域医療構想との整合性をとるべきとし、地域医療構想調整会議の合意事項と齟齬が生じた場合には、当該公立病院改革プランを修正すべきとしている。公立病院には、一般病床または療養病床の病床利用率が 3 年連続 70%未満の病院が約 3 割ある。また公立病院には改革に向けて減反補助金のような財政措置もある。仮に構想区域で病床削減を行う必要がある場合には、公立病院から検討を始めることとなろう。
  • 国全体の歳出改革を考えると、地方交付税、運営費交付金、国庫負担金・補助金、政府出資金のあるところから、必要な場合にはダウンサイジングを進めることが筋である。
  • 国立病院は積極的な設備投資を行っており、組織力もある。地域医療構想の下、各病院が地元構想区域で柔軟な対応がとれるかどうかが懸念される。国立病院について調整会議で先行して議論の俎上に上げたほうが良いと考える。
  • 労災病院の中には外科が休診といった病院があり、本来の役割である労災疾病への対応も困難になっているのではないかと推察される。政府出資金も食い潰されており、地域医療構想いかんにかかわらず民間譲渡も含めた経営改革が必要である。
  • 日赤、済生会、JCHO は地域包括ケア病棟や在宅医療に参入してきており、中小民間病院と競合するおそれがある。2016 年度の診療報酬改定では、大規模急性期病院の地域包括ケア病棟参入は制限されたが、さらに整理が必要である。
  • 地域医療構想においては、都道府県知事は公的医療機関等に対して、不足している病床機能への転換を命令することができるが、民間医療機関が不足機能を担おうとしている場合には、公的医療機関等を先んじて転換させない措置も必要である。
  • 年金保険料、健康保険料、労災保険料で整備されてきた病院は、病院譲渡によって国の特別会計に譲渡益(益が出た場合に限るが)が納付されるケースもないとはいえない。地域医療が引き続き確保されることは絶対であるが、その上で、今後の選択肢として民間譲渡を排除すべきでもないだろう。
  • なお、いずれのケースも地域(構想区域)の事情によるものであることは言うまでもない。

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