ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 372 2016-11-18

自助への誘導と政策の不作為:
検証 『2015年 医療のグランドデザイン』

 

  • 国民医療費40兆円という現実を私たちはどう受けとめるべきか。本稿では、過去になされた行政(厚生省)および医療専門職団体(日本医師会)による医療費予測を手掛かりに、今世紀の医療費とその中身を詳細に検討した。
  • かつて1994年と1997年に厚生省が提示した「医療費亡国論」的な医療費予測に比べれば、2000年に日医が提示した予測は手堅いものだった。しかし現実の医療費は、例外的に膨張した調剤医療費を除き、日医の予測よりもさらに抑制され、推移してきた。
  • 今世紀に入って以降の15年間、国民医療費の名目値が10兆円超増えたことは事実である。その財源の負担増内訳を「家計」「事業主」「国」「地方自治体」の4区分でみると、事業主の負担増だけが少なく、他の半分も負担していない。以上の視点から、今世紀の医療政策をあらためて振り返れば、患者負担を増やし、患者の在院日数を減らす様々なインセンティブを制度的に設けて医療需要を抑え、診療報酬のマイナス改定とあわせて医療費を抑えようとしてきた政策の意図を確認することができる。
  • 過去になされた予測の検証を踏まえ、(1)在宅ケア偏重の再考、(2)事業主負担増の検討、(3)徴税政策と財政政策の見直し、の3点に絞って具体的な提言を行った。糺すべきは、政策が何を為したかはもちろんだが、何を為さなかったのか。すなわち、“政策の不作為”である。

ダウンロード  (約 969 KB)