ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 383 2017-06-23

多様な災害医療派遣チームの「連携」に関する研究
-なぜ連携不全は起きるのか?
鬼怒川水害の経験から活動調整メカニズムを考える-

王子野 麻代

 

昨今、被災者の医療や健康支援において災害医療派遣チームの多様化が進み、相互間の連携不全が課題となっている。たとえば、DMAT・JMAT・日赤救護班・JRAT・AMAT・AMDA・DCAT・DPAT・DHEAT・JDA-DAT・JCHO・TMAT・HuMA・知事会救護班などがあるが、これらは個々に独立した存在である。連携実現のためには何らかの介入が必要であり、国は一定の対策を講じているが十分といえるだろうか。この点、実際の事例をもとに連携開始から終了まで一連の「活動調整メカニズム」を解明し、連携不全の要因を踏まえ検証する必要がある。しかしながら、既存の事後検証の多くは、個々の災害医療派遣チームごとの個別の活動検証であり、各派遣チームを超えた連携に係る横断的な検証は少ないという現状があった。

そこで本稿では、多様な災害医療派遣チームの「活動調整メカニズム」を明らかにするため、鬼怒川水害時に連携した5つの災害医療派遣チーム(茨城DMAT・JMAT茨城・日赤茨城・茨城JRAT・茨城県こころのケアチーム)の一連の支援活動を横断的に検証した。

その結果、連携を実現する「活動調整メカニズム」には、①調整本部の設置、②参集の声かけ、③個々の派遣チームの参集・参入合意、④コーディネート体制の構築の4つの介入ポイントがあることが判明し、このいずれかに不調が生じることで「連携不全」が起きることが明らかとなった。今後、連携不全を防ぐためには、国が示す“調整本部”や“コーディネート体制”の整備のほか、災害医療専門家の協力を得て地域に存在する災害医療派遣チームを把握するとともに、それを踏まえた既存の情報連絡体制の精査と充実化、各派遣チームの統括者の明確化と周知、統括者間の相互理解と合意形成、さらには日本医師会生涯教育等を通じた災害医療リテラシー教育の充実化や、個々の災害医療派遣チームにおける個別訓練の強化と共同訓練の実施が必要であることが示唆された。

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