ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 385 2017-08-02

製薬企業・医薬品卸・調剤薬局の2016 年度決算

 

  • 上場企業の決算短信等を元に 2016 年度診療報酬改定後の決算を分析した。
  • 先発医薬品企業は、薬価改定の影響も少なくないが、売上高の変動は企業戦略、企業努力によるところも大きい。先発医薬品企業は新規収載品に注力することで売上高を維持・拡大している面もある。内資系企業で世界トップ 10 に入る企業はなく、研究開発費の規模も海外メーカーに大きく水を開けられている。
  • 後発医薬品大手は政策によって事業規模は拡大しているものの、収益性、安全性はやや厳しくなっている。
  • 医薬品卸は、2016 年度は薬価マイナス改定およびC型肝炎治療薬の反動減の影響を受けて、減収である。ただし中長期的には増収基調であり、利益もほぼ上昇傾向にある。卸の中抜きも進展していないようであり、医療界では卸が一定の役割を果たしていることがうかがえる。なお、医薬品卸の売上総利益率分は流通コストとして、原価計算方式の場合の薬価に組み込まれていることに留意しておく必要がある。
  • 調剤薬局大手の売上高は M&A 効果により増収、そうでないところでも調剤医療費のマイナスよりは減収幅が小さい。一方、調剤薬局中堅の売上高伸び率は大手よりも概ね低い。ドラッグストアは、調剤薬局を併設して調剤売上高を伸ばしているところがあり、今後のシェア拡大が予想される。
  • 薬価制度改革が進んでいるが、薬価改定が企業経営にどのような影響をもたらすのかは良くわかっていない。そこで、公的医療保険に係る国内医療用医薬品事業については、企業の決算書にセグメントを区分して売上高や利益を公表してほしいと考える。薬価改定だけが売上高や利益に影響しているわけではないことは承知している。しかし、医療保険財政の持続可能性が懸念される中、決算書上の医薬品セグメント情報は、製薬企業等と国民の合意形成のための貴重な資料のひとつになるだろう。

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