ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 389 2017-09-27

貧困・社会格差と健康格差への政策的考察

石尾 勝

 

  • 「貧困」には「絶対的貧困」と「相対的貧困」の考え方があるが、先進国では「相対的貧困」すなわち社会経済的な格差とその拡大が問題である。
  • 我が国の「相対的貧困率」は国際的に劣悪な水準で、格差の拡大が指摘される。
  • 格差を生み、健康に影響する社会経済的要因としては、所得、職業、教育の階層、生活習慣、居住・生活環境、人間関係、社会関係(ソーシャル・キャピタル)、ストレス、胎児期から幼少児期の成育環境、保健医療のアクセスビリティ等がある。
  • 職業、学歴等の社会階層が低いほど健康に悪い生活習慣を持ち、不健康になる傾向があり、格差が大きいほど社会全体の健康レベルが低くなる(格差仮説)。
  • 人間関係が少ないと健康が悪くなり、地域や職場の信頼感等も健康に関係する(ソーシャル・キャピタル)。ストレスは疾病リスクを高める。
  • 我が国は国民皆保険であるが、職業や保険種類等によりアクセスビリティに差があり、利用が制限されている世帯等も少なからず存在する。国民皆保険の脆弱化を進める危険性がある。
  • 胎児期から幼少児期の健康はその後の人生や健康を左右する。子供の健康は社会にとっても重要な課題である。
  • 土台となる社会保障や所得再分配政策も含め、多面的な政策対応が必要であり、我が国でも「健康日本21(第二次)」で健康格差の縮小の目標を設定している。
  • 我が国は育児・子育て等の家族関連社会支出の割合が先進諸国に比べて少ない。
  • 必要な社会保障支出の維持は国民の健康の土台であり、国民皆保険堅持とともに、制度改革による保険機能強化の検討(分立する制度の一元化等)もあり得よう。
  • 保健医療の視点から格差縮小に向けて、社会経済領域への医師及び医師会が政策的に果たす役割と機能は重要である。
    • 雇用面:健康経営における産業医の役割拡大と機能強化
    • 地域とアクセスビリティ面:地域包括ケア・在宅医療におけるかかりつけ医の定着と活動強化
    • 教育面:学校医等による対応強化、健康教育・啓蒙の 推進等への関 与
    • 居住環境・住宅政策:「健康住宅」への保健医療的な 知見 の活用と関 与
    • 街づ くり・ 都市 政策:「健 幸都市 」への保健医療的な 知見 の活用と関 与
  • エビデンスに基づき適切な方法で政策を設計し実行する必要があるが、ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチの合わせ技が有効である。また、「インセンティブ」を用いて、個人や集団に働きかける手法が有効である。
  • 我が国の「健康格差」は相対的に小さいとの 見 方があるが、相対的貧困率や子どもの貧困率が国際的に劣悪な水準にある 中 、「健康格差」の拡大については 十分な 注意 と対応が必要である。
  • 国民皆保険の堅持を主軸に、真に国民に必要な保健医療の提供を実現する上でも、「格差」が小さく、健やかで幸せに暮らせる社会を作っていくことが必要である。社会経済の様々な領域で保健医療にできること、果たすべきことは大きくその観点に立った医師や医師会の役割拡大が求められている。

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