ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 402 2018-02-07

子どもの緩和ケアを考える
-英国の制度・普及啓発活動から-

 

  • 日本国内でも、主に成人のがんへの緩和ケアが定着しつつある。2017 年 10 月には、第 3 期のがん対策推進基本計画が策定された。世界においても日本の緩和ケアのレベルは高い水準にある。しかし、子どもの緩和ケアについては、医療従事者向けの教育プログラムの提供、小児がんの子どもの緩和ケアの指針作成、診療報酬における小児加算など一定の成果がみられるものの、一般への理解やケアの提供体制が十分とは言えない。
  • 世界に目を向ければ、英国は成人・子どもの緩和ケアともに最も提供レベルの高い国の一つである。本稿では、子どもの緩和ケアに関する基本的な情報を整理する。そのうえで、子どもの緩和ケアについて先進的な取り組みを講じている英国の現状について、ニーズや医療提供体制、国の政策、普及啓発活動に分けて明らかにする。
  • 子どもの緩和ケアのポイント
    1. 病気を認識した時、あるいは、診断された時から、子どもの生涯を通じて、死亡時、死亡した後まで続くケアで、終末期にのみ提供されるケアではない
    2. 痛みや苦痛の緩和のみならず、患者とその家族を支える全人的なアプローチである
    3. がん以外にも多様な疾患が対象となる
    4. 子ども自身はもとより、親やきょうだいなどさまざまな関係者への支援が特徴的である
    5. 子どもの成長に応じたケアが必要である
  • 英国において、命の限られた疾患を有する子どもはおよそ 4 万人。疾患別の死亡者数では、先天性奇形・変形・染色体異常、神経系疾患、新生物が上位を占めた。死亡場所で最も多かったのは病院であった。
  • 英国において、子どもの緩和ケアは、主に子どもの自宅やホスピス、病院などで提供される。具体的には、緩和ケアの必要な疾患を持つ子どもとその家族を中心に、病院の小児科医や地域の GP (General Practitioner, 家庭医)、地域の小児専門の訪問看護チーム、子どものホスピス、地方自治体の社会的ケアサービス(一時休息や移送支援など)、教育やリハビリ、悲嘆ケアなどさまざまなサービスを提供する慈善団体などが関わる。
  • 英国内には、世界で最初の独立した子どものホスピス「ヘレン・ハウス」など 47 カ所の子どものホスピスがある。ホスピスでは、一時休息、終末期ケアサービス、家族支援サービス、きょうだい支援、緊急時の治療、症状管理などさまざまなサービスが提供されている。
  • 英国では 2008 年、子どもの緩和ケアサービスをどう構築していくかを示した、子どもの緩和ケアの国家戦略「Better Care: Better Lives」が策定された。
  • UK 全体の子どもの緩和ケアの普及啓発活動として毎年 5 月に Children’s Hospice Week が開催されている。この催しは、ホスピスやレスパイトセンターなどが参加し、命を脅かされる疾患を有する子どもとその家族をサポートする緩和ケアサービスに関する、一般の意識向上と資金調達のための、王室も支援するキャンペーンである。
  • 子どもの緩和ケアの課題として、緩和ケアへの理解が不十分であること、ニーズに応じたケアが提供されていないこと、資金体制が不安定であること、子どもの疾患特有の疼痛管理の難しさがあること、治療方針の決定をめぐる問題があることといった課題が挙げられた。
  • 日本での取り組みで参考となる点については、地域で子どもとその家族を支えるために国が講じるべき政策の方向性を国家戦略等で明確に示すこと、ニーズを把握すること、一般の人々や医療従事者、政策立案者、国会議員らへの普及啓発を促進することといった点である。

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