ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 413 2018-08-24

製薬企業・医薬品卸・調剤薬局の2017年度決算

 

【先発医薬品企業】
  • 海外の大手製薬企業の売上高は日本最大手の数倍であり、研究開発費の差も大きい。しかし日本の公的医療保険(薬価)財源には限界がある。日本では承認審査制度、研究開発税制や補助金等によっても製薬企業のイノベーションを後押しする必要がある。
  • 薬価の原価計算方式では、上場製薬企業の売上高営業利益率の平均を用いて営業利益を計算する。上場製薬企業の売上高営業利益率は外国企業と比べて著しく高いものではないが、日本の製造業平均等と比べると高くその妥当性を確認するべきである。
  • 先発医薬品企業が長期収載品を他社に移管する動きが見られる。この場合、オーソライズドジェネリックになるわけではなく、長期収載品としての薬価になる。長期収載品、オーソライズドジェネリック、後発医薬品の定義の再定義が必要と考える。


【後発医薬品企業】
  • 後発医薬品のグローバルメガファーマと国内企業の売上高の差が大きく開いている。国内企業は約200社あるが、多くが非上場で経営実態を把握できる状況にすらない。
  • 後発医薬品企業では売上高は拡大しているが収益性は低下しており、積極的な設備投資もあって、売上高営業利益率が低下し、自己資本比率の低下も見られる。


【医薬品卸】
  • 医薬品卸大手の売上高は薬価改定年には減少するが、薬価改定率ほどには低下しない。高額な薬剤に販売をシフトしている可能性がある。
  • 原価計算方式では、上場医薬品卸(医療用専業)の全社売上総利益率の平均(7%前後)を用いて流通経費を計算する。しかし医療用医薬品に限定すると売上総利益率は6%台である。原価計算に全社売上総利益率を使用することで良いのか確認が必要である。


【調剤薬局等】
  • 調剤薬局やドラッグストアの調剤売上高は順調に拡大している。M&A効果もあり、いわゆるチェーン薬局が拡大していることがうかがえる。
  • 調剤薬局、ドラッグストアのROE(自己資本当期純利益率)は10%を超える水準である。
  • 毎年利益剰余金が積み増されており、2017年度末の利益剰余金(内部留保)は大手5社合計で1,333億円になった。
  • 調剤薬局大手の配当性向は全産業平均よりやや低い水準であったが、配当の原資が調剤報酬と薬価差益であるという点に留意すべきである。


【全体】
  • 国内産業の成長が期待されると同時に、公的医療保険財政が厳しい中で薬価、調剤報酬が適正に設定されているのか国民の納得を得るために、各企業から公的医療保険に係る「国内医療用医薬品事業」をセグメントとして明確に区分したデータが提示され、公的医療保険の財源が最終的にどう使われたのか(給与、設備投資、配当、内部留保)も示された上で議論が行われることを期待したい。


23頁に「サンド(サノフィのジェネリック部門)」と記載していましたが、サンドはノバルティスグループのジェネリック部門であり、修正いたしました。筆者の確認不足により関係者の方にご迷惑をおかけし、お詫び申し上げます。なお、あわせて24頁の記載も修正いたしました。

ダウンロード  (約 689 KB)