ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 417 2018-10-29

公的年金の積立金の運用について
―直近の運用状況を中心にした考察―

石尾 勝

 

  • 公的年金は医療・介護とともに社会保障の両輪であり、公的年金の運営が危うくなれば我が国の社会保障運営の土台を揺るがし、医療分野にも少なからぬ影響が生じる。
  • 公的年金の積立金の運用は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)により行われており、その運用の巧拙と成果は「公的年金」における重要なリスク変数の一つと言える。
  • 2017年度は、国内債券はマイナス金利政策が続く中、ほぼゼロ利回りであったが、内外の株式市場の上昇等により、良好な運用実績となった。
    GPIFの運用全体の収益率は+6.90%、収益額は+10兆810億円で、運用資産額は156兆3832億円(2018年3月末)となった(年金特別会計の管理分含めると161兆8755億円)。
  • 市場運用開始(2001年度)からの年平均収益率は+3.12%、累積収益額は+63.4兆円となり、年金財政上必要とされる「実質的な利回り」を上回っている。
    ただ、最近の良好な運用成果は、予想外の「トランプ・ラリー」という僥倖による面もある。
  • 2017年度末の資産構成割合は、国内債券27.5%、国内株式25.14%、外国株式23.88%、外国債券14.77%で、「基本ポートフォリオ」に比べ、国内債券のアンダーウェイトが大きい。これは、アベノミクス+異次元金融緩和の弊害、さらには基本ポートフォリオ運用の行き詰まりを示していると言える。
  • また、オルタナティブ資産への投資を開始している。当面の対象はインフラストラクチャー、プライベート・エクイティ、不動産である。
    未だ金額的にかなり小さく、収益面の効果を議論出来ないが、今後、本格的にオルタナティブ資産の運用を行うこととしており、留意が必要である。
  • 「基本ポートフォリオの定期検証」の結果、現行ポートフォリオは、依然として効率的であり、概ね目標利回りを満たし、運用資産残高が年金財政で必要な予定積立金額を下回るリスクは小さくなっている。したがって、現行ポートフォリオは見直す必要はない、としている。
  • アベノミクス+異次元金融緩和政策は今だ道半ばであり、評価は分かれる。そうした中で、公的年金の積立金運用は良好なパフォーマンスをあげてきた。やや皮相的に言えば、 安倍政権の経済政策の恩恵を最も享受したのは、公的年金の運用であると言えるが、それで公的年金に内含する制度的な問題点や将来的なリスクが解消したわけではない。
  • 良好な運用による財政上の「のりしろ」は、将来に向かって確定したわけではないので、「のりしろ」があるうちに、運用リスクを減らした運用を考えていくべきではないだろうか。
    政府・GPIFは、公的年金の積立金運用について、国民に十分な説明責任を果たした上で、慎重に行っていくべきである。
  • 来年は、5年に一度の公的年金の「財政検証」の年である。
    安倍首相は、「全世代型社会保障」制度の実現を掲げており、公的年金制度についても、働き方改革の内容と合わせて、どのような分析と展望になるのか、大いに注目される。
    足元の運用の好調さに寄りかからず、制度運営や財政上の課題、問題点を丁寧に議論し、 真の意味で「100年安心」な公的年金の実現に向けて、知恵を絞っていく必要がある。

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