ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 422 2019-02-05

医業承継の現状と課題

 

  • 本稿の目的は、地域医療の安定供給の観点から、医療機関の事業承継に関わる論点を整理し、問題への対処方法を提示することである。医師の高齢化、後継者不在の実態が認識されているにもかかわらず放置されていると、いずれ医師不在、地域医療の適切な提供不可というリスクが顕在化しかねない。
  • 文献調査と入手可能な統計データ分析に加え、多くの医業承継案件を取扱う専門職(公認会計士・税理士・弁護士)、経営コンサルタント、M&A仲介事業者へのインタビュー調査を実施した。これらの結果を踏まえ、事業承継にあたり後継者不足が主因となり事業撤退リスクが増大している、との仮説を検証した。
  • 調査の結果、後継者不足を主因とする第三者承継事案が増えている現状が判明し、上記仮説が確認された。結果を基に、円滑な医業承継を推進するための論点と課題を整理して考察を加え、以下のとおり具体的対策を提示した。
  • 医業承継に関わる直近の状況を確認するために、医療機関向け調査を実施し、後継者問題と第三者承継の実態、とりわけM&A仲介事業者等の活動実態を把握する。加えて、後継者候補たる若手医師向け調査を実施し、起業意欲や承継にあたっての具体的課題を把握する。
  • 承継事案に対してどう対処したらよいかわからないとの医療機関経営者の声に応えるため、日医として、都道府県医師会が独自に実施している啓発活動を支援し、さらには、診療所向けに事例集や手引書の作成を検討する。加えて、都道府県医師会と連携し、日医で事業譲渡希望者と譲受希望者のマッチングを支援する仕組みを検討してはどうか。
  • M&A仲介事業者等に対し、行政による一定の規制と監視が必要である。一方では、行政自身にも、医業承継に関する税制上の優遇措置のさらなる改善に加え、医業承継に係わる行政の取扱い実務の統一化・ルール化(可視化)や第三者承継を前提とした柔軟な制度運営といった対応の改善を求めたい。

 

2020年12月改訂 10頁脚注8

厚生労働省・医療施設調査の統計について、「個人診療所が法人化される場合や第三者に承継される場合も「廃止」の数値に含まれる」と記していましたが、改めて厚生労働省に照会し、同調査においては、個人診療所が法人化する場合、「変更」として1カウントとする取扱であることを確認しました。そこで、「個人診療所が法人化される場合や第三者に承継される場合は、本調査では「廃止」「開設」の数値に含まれていない」と改訂しました。

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