ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 478 2023-11-06

【欧州医療調査報告書 概要版】英・独・仏の“かかりつけ医”制度
―平時の医療提供体制、新興感染症へのレスポンス―

森井 大一 

 

♦ 日本医師会は、2023 年5月から6月にかけて、イギリス、ドイツ、フランスに、これらの国でのかかりつけ医制度とその実態、及びかかりつけ医を中心とするコロナ対応の実情を把握する目的で、訪問調査を行った。
♦ イギリスは、GP への登録制及び人頭払制のあるかかりつけ医制度を持つ国であるが、GPは患者の住居・生活環境、雇用、孤独・人間関係等の非医療的需要に忙殺されており、医療的な機能に集中できない状況となっている。
♦ イギリスの医療提供体制には、かかりつけ医である GP と高度急性期入院医療を担う acute trust の間に community service があるが、この機能が不十分であり、GP とacute trust という二つの機能が分断されている。
♦ イギリスのコロナ対応においては、GP によるかかりつけ医機能は発揮されず、患者は acute trust の救急外来に殺到した。最も医療機関への影響が大きかった第 2 波(2020/2021年冬)には、全病床の半分がコロナ診療に転用された。
♦ イギリスでは、コロナが通常診療に大きな影響を与え、2023 年春には England(人口 5650 万人)で 750 万人の入院待機患者を生む事態となっている。この“医療崩壊の常態化”とも言い得る状態を backlog 問題という。

◆フランスは、国民に登録義務を課すかかりつけ医制度のある国であるが、医師の労働時間の短縮と医師数そのものの減少により、かかりつけ医(MT、médecin traitant)を見つけられない“かかりつけ医難民”が問題となっている。
◆フランス版ナース・プラクティショナーであるIPAが法制化されたが、IPAによって提供される医療の質の担保に疑義が呈されており、普及は進んでいない。
◆フランスでは、コロナの最初期において、かかりつけ医(MT)を受診せず病院を受診するよう政府が国民に指示した。そのため、病院の医療資源が一気に枯渇し、病床の8割がコロナに転用された。
◆フランスでは、第1波の途中から総合医を中心とした外来診療の必要性・重要性が主張され、政府も方針転換して総合医らによるコロナ診療を認めた。その際、かかりつけ医制度は凍結され、フリーアクセスで対応した。
◆ドイツには、かかりつけ医への登録義務がなく、その意味でかかりつけ医制度がない。ただし、文化・習慣としてかかりつけ医を持つことが根付いている。
◆ドイツのコロナ診療の「20分の19」を開業医が担った。そのため、病院機能、特に集中治療機能が温存され、通常診療への影響が最小限にとどめられた。これによって周辺国から重症者を受け入れた。このような開業医の役割はschutzwall(防御壁)といわれる。
◆日本のコロナ状況は、欧州と比べると比較的感染者数・死亡数共に少なかったが、その割に医療アクセスの問題が顕在化した。
◆日本のコロナ対応は、類型的にイギリスの対応に類似していた。
◆日本では、コロナを感染症法・新型インフルエンザ等対策特別措置法というmartial lawによって取り扱い、行政通知によって一般医療者の応召義務を免除するという行政対応が長期間維持された。そのため、医療者・国民共に「特別な病気」という位置づけの見直しが遅れ、一般医療の活用が進まず比較的小さな流行で、有限な医療提供資源を使い果たすことが繰り返された。

 

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