ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 468 2023-01-18

コロナ自宅療養者に対する健康観察及び医療提供体制に関する調査 

令和4年改正感染症法を踏まえた
法制度的観点からの考察

王子野 麻代

清水 麻生

 

ポイント

  • 新型コロナウイルス感染症流行から3年が経ち、将来の感染症パンデミック対策に向けた議論が活発になってきている。例えば、感染症法改正法案は令和4年12月2日に可決成立し、令和5年には内閣感染症危機管理統括庁や日本版CDCといった司令塔の創設に向けた関係法案が国会に提出される予定である。本調査研究は、そのような将来の感染症パンデミック対策の議論に、新型コロナウイルス感染症対応の教訓を活かすことを目的とするものである。
  • 新型コロナウイルス感染症の医療提供体制は、「入院」と「療養」の大きく2つの柱で成り立っているところ、本稿では、自宅「療養」に焦点をあて、健康観察及び医療提供体制に関する取組みについて調査を行った。その背景には2つの理由がある。第1に、もともと「療養」に係る法制度が事前に準備されていなかったこと、第2に感染拡大期における自宅療養者数は入院をはるかに超える規模で存在し、その支援体制は必要であり、限られた医療資源の下に実効的な体制づくりが求められることにある。
  • 国は、「療養」体制の整備にあたって、地域の実情に応じた地域の判断にゆだねてきたことから、地域がどのような体制を構築し、対応にあたってどのような課題を抱えていたのかといった地域の実践的教訓を把握する必要があった。
  • そこで今回、東京都医師会及び5つの郡市区医師会(3区2市)の協力を得て、自宅療養者に対する健康観察及び医療提供体制に関する取組みや課題・教訓についてヒアリング調査を行った。そして、今般成立した改正感染症法(以下、「R4改正法」という。)が、本調査結果により得られた地域の実践的教訓を踏まえたものになっているかという観点から検討を行った。
  • その結果、自宅療養も含めた体制整備や、平時の医療提供体制・地域包括ケアシステムとの整合を図るという「法制度全体の枠組み」についてはR4改正法にて教訓を踏まえた一定の改善が図られたといえるものの、健康観察と医療の連続性、平時の仕組みを考慮した都道府県と市区町村との役割分担、現場レベルでの情報連携、通常医療とコロナ医療の両立の観点から個別の課題は残る。今後、都道府県における各種計画策定過程の議論のなかで運用による解決が図られるかが注目される。
  • なお、今回の調査を通じて、東京都という1つの自治体内でさえ、地区ごとに取組みや課題は様々であったことを踏まえると、都内の他の地域はもとより、全国的な取組みの多様性とそれにより抱えている課題の相違が窺える。そのため、本稿の分析がすべての地域に適合するものとはただちにはいえない研究の限界がある。今後、各地域において、これまでのコロナ対応の振り返り検証が行われることを期待する。

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