ワーキングペーパー
ワーキングペーパーNo. 467 2022-08-31
コロナ禍における地域医療情報連携ネットワークの活用
◆全国のICTを利用した地連NWから新型コロナウイルス感染症対策に地連NWを活用した事例6件を紹介。
◆新型コロナウイルス感染症のような感染症蔓延下において、地連NWが役立つ利用方法があると回答した地域は約7割(68.4%)を占めた。
◆地連NWの使用頻度は、医療機関などへの訪問が難しいため設定、操作説明が行えず登録患者数や登録施設数が増えない地域とコロナ禍だからこそ非対面・非接触での利用が可能な地連NWを使用する機会が大幅に増えた地域の二極化が確認された。
◆新型コロナウイルス感染症対策として電話、FAXなどを主体とした地域、地連NWを用いて迅速な情報共有を行った地域、ワクチン接種管理、トリアージなど幅広い活用ができた地域など、感染症対策は地域毎に大きく異なった。
◆【秋田県・山形県地域医療情報連携ネットワーク広域連携(秋田・山形つばさネット)】
秋田県と山形県の両医師会、両県が協定調印式を行い2020年4月から運用。
県境を越えて全県対全県の連携は全国初である。コロナ禍で患者の県境移動が制限された際に有効活用された。
◆【庄内医療情報ネットワーク(ちょうかいネット)】
参加している情報開示病院の医師記録(診療録)、検査結果をすべて開示しており、診療情報のみならず調剤情報、検診データの情報共有も行っている。コロナ禍では「ちょうかいネット」を活用して各病院、宿泊療養施設、保健所が連携し、情報共有を行った。宿泊療養施設ではID-Linkのフェイスシート機能を用いたバイタル入力を行い、医師は医療機関、宿泊療養施設における患者情報の閲覧が可能であった。
◆【いしかわ診療情報共有ネットワーク(いしかわネット)】
石川県では一時、人口当たりの新型コロナウイルス感染症患者が全国一位となった。従来の厳しい運用ルールをコロナ対策として臨時運用ルールを設け、参加医療施設のみならず宿泊療養施設や県に設置された医療調整本部においても使用できるようにした。ID-LinkのEMS機能を活用している。
◆【愛知県の取り組み】
「IIJ電子@連絡帳」を用いた取り組みが多くみられ、県内48の行政による広域連携を行っており、行政、専門職が二次医療圏にとらわれることなく、患者の生活圏にある医療機関への入院、転院が迅速に行える。全国でも珍しい介護認定電子審査会システムが導入され、オンライン開催を行っている。認定時の専門職不足地域では、他の自治体から認定審査員を募ることも可能である。また、電力会社と連携し、停電時に電気が必要な要支援者の対応を行うなど幅広い取り組みが行われている。
◆【瀬戸旭もーやっこネットワーク】
名古屋大学医学部付属病院と連携した「新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクト」第1号として運用。ビデオ会議システム、ワクチン接種管理記録を活用、接種履歴のみならず接種を受ける者の医療、介護の情報を共有している。高齢者見守りサービス「もーやっこサポート」も導入し、迅速な安否確認を行っている。
◆【かがわ医療情報ネットワーク(K-MIX R)】
レセプト情報を参照するシステム「K-MIX R BASIC」を全国で初めて運用している。香川県内の9割近くの保険者が参加しており、集団接種会場および医療機関でのワクチン接種予診時に重症化や重篤化に繋がる可能性がある基礎疾患の有無が確認できる。遠隔読影システム(RadVision)を用いた迅速なトリアージも行われている。
◆【くまもとメディカルネットワーク】
2020年に見舞われた豪雨災害の経験がコロナ禍における地連NWの活用にも生かされた。熊本県内の基幹病院のほぼすべての電子カルテ端末で「くまもとメディカルネットワーク」の利用が可能となっている。主に救急搬送モード、文書作成・文書送受信機能、介護情報ビューアを用いた取り組みが行われている。
◆全国版EHRへの実現には、窓口の明確化、同意取得方法、名寄せをするためのID整備、地域IDの設定、運用規定、アクセス権限、職種制限、セキュリティの確保など多くの課題があり、システムおよび運用面での整備が必要となる。
◆システムを導入することはシステム構築が目的ではなく、より良い医療を患者や地域住民に提供するためのツールの一つであり現場で一緒に育てていく必要がある。
◆当該地域で有効と思われる事例については積極的に取り入れ、使用する地域の特性にあった形式にカスタマイズしたうえで導入するべきである。
◆地連NWを継続するためには運用費用の負担が大きな課題となっており、各地域での自助努力だけでは限界がある。地域医療介護総合確保基金などの交付金が柔軟に使用できるなど、地連NW安定運用に向けて国や行政からの手厚い支援を希望する。
◆セキュリティ対策を強化し、予めサイバー攻撃を受けない対策も必要であるが、被害にあった場合に備えた対策も必要である。
◆通信障害に備え、別回線を用意しておくなど関係施設のみならず患者や地域住民の命が脅かされることがないよう事前対策を講じる必要がある。
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