ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 207 2009-12-09

地域医療を担う医師会病院等の運営課題把握のための研究
—平成21年度「医師会共同利用施設検討委員会」における調査結果—

 

  • 平成18 年の診療報酬改定等により医師会病院の運営環境は一層厳しく、財務状況の悪化や医師不足等により運営断念の医師会病院も懸念され、また連帯保証という深刻な問題により医師会が崩壊しかねない状況ともなっており、医師会病院を中心とした共同利用施設や、債務保証等のあり方の検討が求められる。
  • そこで、(1)医師会病院の財務状況及びその影響要因と今後の事業継続等への対応、及び(2)医師会の連帯保証人問題とその深刻度についての実態把握と分析を行い、医師会病院の今後の運営課題を抽出することとした。
  • 実態把握の方法は、医師会が開設主体或いは運営主体となっている医師会病院等を対象にアンケート調査を実施することにより行った。アンケート調査の発送数は75 票、回収数72 票、回収率は96.0%であった。
  • アンケート調査結果を踏まえ、医師会病院における運営課題として、次のような6 つの課題を抽出した。

    (1)悪化する財務状況と主たる悪化要因である診療報酬面及び医師・看護師不足等への対応

     

    1. 医業利益、経常利益等の財務データでみた過去3 年間の財務状況は全体的に悪化しており、多くの病院が3 年前に比べて「悪くなっている」と評価しているとともに、現状についても「悪い」と評価している。
    2. 療報酬体系面での悪化要因については、主に平成18 年の診療報酬改定の、「リハビリテーション料」「紹介患者加算の廃止」「入院基本料算定要 件」等を中心に、見直し等を図ること。
    3. 診療報酬体系以外の悪化要因である医師・看護師等不足やそれに伴う問題では、一層自律的な人材確保策を講じ、人材確保面や地域医療再生基金等財政面で公的支援を求めていくこと。
    4. 後の設備投資等については、病院の財政状況にあった適正な設備投資計画の策定と、投資に際しての入札の活用と競争原理の積極的な導入を図ること。


    (2)今後の運営継続に問題がある医師会病院の存在とその対応の必要性

    1. 師会病院全体の中で12 または13 病院は、何らかのかたちで今後の運営継続にかなり問題がある医師会病院であると推測される。
    2. 成20 年度の医業利益が赤字であっても、「運営継続に関し協議したことがない」医師会は24 にも上り、これら医師会においても運営継続に関する協議を行っていくことが必要である。
    3. 師会病院の運営の方向性は医師会自体にも大きな影響を与えることから、今後の病院運営の方針について医師会会員とともに、地域住民のコンセンサスも得る中で、今後の医師会病院の運営に対応していくことが必要である。


    (3)医師会一般会員の医師会病院利用と運営への参画について徹底的な協議の必要性

    1. 務状況を悪化させている要因として、医師会員の医師会病院の利用・参画に関することが挙げられている。
    2. 師会病院設立当時に比べ、競合する一般会員の病院が多くなり、設立に関わった会員も高齢化し、若い会員に必要性への認識が希薄になるといったこと等が背景にあると考えられ、地域における医師会病院存立の意義・評価について明らかにする必要がある。
    3. 益法人改革への対応方針の検討と併せ、医師会病院利用と運営への参画について、医師会会員が徹底的な協議を行うことが必要である。


    (4)高額な借入金残高の連帯保証人問題の深刻さと今後の対応の重要性

    1. 本的な対応として、公的機関による新たな保証制度の整備や、既存の都道府県中小企業信用保証協会の保証制度の拡充、一般会員全体で保証する体制づくり、或いは福祉医療機構による借り換えによる保証人の解消等を、公益認定条件や福祉医療機構の融資条件の緩和等と併せ、総合的に検討・要請していくことが非常に重要。
    2. 師会病院等の財務状況が強く健全で、資金調達に際し保証人を必要としない状況が最も望ましく、この点からも診療報酬体系の問題や医師・看護師不足等の解消が望まれる。


    (5)医師会独自では困難な改修・建替えの問題がある医師会病院と公設民営方式の代替案としての検討

    1. 要病棟群に改修又は建替えを必要とするものは、アンケート対象の約 6 割弱にも上っている状況にある。
    2. かし、独自で或いは条件付でも対応可能かどうか問題があると考えられる病院は、合計で14 病院にも上る。
    3. 設民営化の評価は、今後の対応方策として前向きに評価されており、病院が今後とも地域で存在していくためには、一つの代替案として検討すべき。


    (6)公的融資機関からの融資の少なさと公的融資機関による長期・固定・低利融資の必要性

    1. 師会病院への融資機関は、地方銀行・信用金庫といった「銀行等」が非常に多く、福祉医療機構等の国の公的融資機関からの融資は全部で2割程度に止まっている。
    2. 師会病院に限らず一般の病院等の資金調達も、現在民間金融機関の中期・変動利率資金等を多く利用する状況になっている。
    3. 師会病院は、公的な医療機能を果たしている病院がほとんどであり、国の公的融資機関による35 年長期・固定利率・低利といったような、融資環境が整備されることが課題。

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