ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 209 2010-01-27

患者の期待権と無過失補償制度 −民事訴訟における過失責任主義の限界−

 

  • 医療事故関係訴訟の裁判例の内容を時系列的にみると、かつての手技のミス等による「作為型」から、医療水準に沿った適切な治療をしなかったといった内容の「不作為型」へシフトしてきている。
  • 「不作為型」において、適切な医療行為を行ったとしても、患者の救命確率が高くない場合や、それによっても延命しか期待できない場合には、不適切な医療行為と死亡等の結果との間には事実的因果関係を認めることができないために、患者を救済するための法理が展開されてきた。
  • この典型がいわゆる「患者の期待権」法理である。
  • この法理は既に民事の過失責任主義の限界を示しているものと考えるべきである。
  • かかる「司法の限界」を踏まえた上でその解決策として、無過失補償制度が設計されるべき。日本医師会では、産科分野において、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児を対象とした無過失補償制度を提言し、本年1月から日本医療機能評価機構の「産科医療補償制度」としてスタートしたところ。
  • もとより、「小さく産んで大きく育てる」という理念の下に「無過失補償」という従来の民法の不法行為概念の原則にない制度を創出したものであって、可能であればこの制度を拡充し、なるべく多くの診療科・患者や妊婦等が救済される制度に発展させていくべき。

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