ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 213 2010-05-21

医療刑事裁判について

 

  •  横浜市立大の患者取り違え事件、都立広尾病院事件を契機に、平成10年代は医療刑事事件が略式起訴を中心に急増したが、平成20年8月の県立大野病院事件の無罪判決以降、医療刑事事件数は激減した。
  •  刑事罰は「犯罪」を犯した者に科せられる公的な制裁であり、刑事手続きにより被る負担・不利益は著しい。
  •  自白調書には、安易に署名押印すべきではない。略式裁判には、安易に応じるべきではない。
  •  医療事故に対する刑事処罰は、①応召義務がある一方で医療は不確実であること、②従うべき規範が明確に示されないこと、③治療困難な患者に対しても医療が必要であること、④医療は未解明の部分を含んでいること、⑤常に医療水準に適った医療を提供することは困難であること、などから刑法の責任主義と相容れない面があるうえ、合理的な疑いを容れない程度に立証することは困難である。
  •  近時無罪となった医療刑事裁判では、内部の医療事故調査報告書が起訴のきっかけとなっている。検察官は起訴にあたって、広く医療者の意見を聞いたうえで、起訴・不起訴の判断をすべきである。また、医療機関において、事故調査報告書は慎重に作成すべきである。
  •  医療刑事裁判を適正化ならしめるために、「過失」の範囲を制限する実体法的な法解釈と、医療事故調査委員会などの手続法的な制度設計をいかにすべきか重要である。

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