ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 244 2011-11-09

最近の医療費の動向とその要因
−「平成21 年度 国民医療費」の分析−

 

  • 診療種類別医療費の構成比に変化が見られる。2001年度は、医科入院37.0%、医科入院外40.9%、薬局調剤10.3%ほかであったが、2009年度には、医科入院36.8%、医科入院外37.4%、薬局調剤16.2%ほかである。薬局調剤の構成比が大幅に高まり、また医科入院と入院外の割合がほぼ同じになった。
  • 薬局調剤医療費の伸びは、医療費の伸びのもっとも大きな要素である。特に薬剤料は年平均7.1%増加している。
  • 年齢階級別は、75歳以上は人口の増加に比べて、医療費の増加が緩やかである。一方少子化が進む中、0〜14歳の医療費が増加している。
  • 1人当たり医療費は0〜14歳では増加している。近年、診療報酬改定等により小児の医療費に手厚い配分が行なわれた結果である。また、周産期医療(正常な妊娠・分娩を除く)に係る医療費も増加している。
  • 75歳以上の医療費は総額では増加しているが、1人当たり医科医療費はほとんど変化していない。とくに85歳以上では1人当たり医療費は減少傾向にある。高齢者個々人の医療費の増加は、高齢者の重複受診や重篤化等によるものではなく、高齢者人口の増加によるものである。また85歳以上の1人当たり医療費の減少は、長期入院医療費の抑制の結果であると推察される。
  • 一般診療医療費に占める4疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)および精神疾患に係る医療費合計の構成比は、近年ほとんど変化していない。つまりこのほかの傷病の医療費も増加しているということであり、留意する必要がある。
  • 悪性新生物の医療費は顕著に増加している。特に入院外医療費、若年層の医療費が増加している。抗がん剤薬剤料の伸びも顕著である。
  • 虚血性心疾患は、平均在院日数が顕著に短くなった傷病の1つである。しかし、医療費は増加しているので、医療の高度化などにより患者1人1日当たり単価が上昇している可能性がある。
  • 脳血管疾患の入院患者数は2005年から2008年にかけて減少しているが、平均在院日数は短縮化されていないので、入院を要する患者自体が減少している可能性がある。
  • 精神及び行動の障害では、入院外医療費が増加し、若年者と高齢者の1人当たり医療費の差が縮小しつつある。
  • 神経系疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病など)は医療費が顕著に増加、白内障、胃潰瘍及び十二指腸潰瘍は患者数の減少にともない医療費が減少している。胃潰瘍及び十二指腸潰瘍は、外来患者数が減少しているが、処方日数が長期化している影響もあると考えられる。
  • 医療費の増減理由は傷病によってさまざまである。自然増以外で医療費が増加する背景には、医療の高度化、診療報酬の引き上げなどがある。減少する背景には、平均在院日数の短縮化、診療報酬の引き下げなど、さらに入院外医療費が低下する場合には、処方日数の長期化もある。政府は「社会保障・税一体改革成案」 で、今後さらに平均在院日数を短縮化する方針を示しているが、こうした傷病特性に配慮しない一括りでの方向づけは、患者の切り捨てにつながるのではないかと危惧される。

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