ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 254 2012-03-30

東日本大震災におけるJMAT活動を中心とした
医師会の役割と今後の課題について

 

  • 2011年3月11日に発生した東日本大震災の医療支援のため、日本医師会はJMAT(Japan Medical Association Team;日本医師会災害医療チーム)を岩手、宮城、福島、千葉、茨城の各県に派遣した。2010年3月にJMAT結成が提言されて以降、初めての活動であった。7月15日まで、延べ1,395チームが活動を行った。
  • 災害医療としての「JMAT」は、被災地で保険診療が立ち上がった段階で終了することを想定していた。しかし、津波による医療機関の消失や、原発事故による避難などにより、現状の医療体制で通常の医療を行うことは困難である被災地もあり、「JMAT」とは違う形での医療支援を引き続き行う必要があることが判明し、7月15日以降は、「JMATⅡ」という形の医療支援に移行した。
  • JMATⅡでは、JMAT後の被災地の公衆衛生上の問題を含め、診療支援や心のケア、訪問診療、健康診断、予防接種支援、巡回診療などについて活動を行うこととなった。 2012年3月1日現在、延べ421チームが活動している。2012年2月28日現在、JMAT、JMATⅡの参加登録者は、7,292名である。
  • 現地の状況をみて、東日本大震災発生を機に、日医は「JMAT避難所チェックリスト」、「JMATトリアージカード」を作成した。「JMATトリアージカード」は、災害初期に用いられる通常のトリアージカードとは異なり、医師が避難所で回診、見回りを行った際、その時点での判断を「赤」「黄」「白」のいずれかのJMATトリアージカードに記入し、患者に渡すことで、治療のスムーズな引継ぎや、早期の治療への結びつきに繋げることを目的としている。しかし、聞き取り調査からは「トリアージカード」という名称から、通常のトリアージカードと混同する例がみられ、必要性をより認識してもらうためにも、名称の一部変更も必要と考えられる。
  • JMATに継続的に参加した3県の医師89名を対象にアンケート調査を行った(有効回答n=52。有効回答率58.4%)。調査結果からは、「現地の情報を把握することが難しかった」「指揮命令系統がばらばらで動きづらかった」「カルテ等の書類形式が統一化されておらず使いづらかった」「地域医師会を中心とした災害医療コーディネーターの配置が不足していた」等の課題が浮かび上がった。
  • JMATに参加した理由として、「医師としての使命感」、「誰かの役に立ちたい」という自発的な動機を挙げた医師が半数以上を占めていた。JMATに参加したことについては、98.1%が「参加して良かった」と回答し、JMATのような活動を日医が行ったことについても、92.3%が「評価する」と回答していた。
  • 東日本大震災発災当時、JMATは研修内容の討議等を進めている段階であり、全てが初めてであった。ノウハウなど何もない手探り状態での活動であったが、充分であった点、指揮命令等の統一化や災害医療コーディネーターの配置・育成など、改善が必要であった点などのさらなる検証は、今後の災害発生時に、JMATの派遣・活動が円滑に行われるために必要である。

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