ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 266 2012-09-12

特区の現状

 

  • 現在日本には、構造改革特区、総合特区(国際戦略総合特区、地域活性化総合特区)、スーパー特区、復興特区がある。
  • 構造改革特区は2003 年に創設され10 年近くがたった。特区から要望のあった規制緩和の約7 割が全国展開(法律を改正し、全国で実施できるようにすること)しているが、もともとの目的は日本経済の活性化であった。これが達成されなかったことは、『日本再生戦略』が「失われた20 年」の存在を肯定するまでもなく明らかである。
  • 総合特区は2011 年に『新成長戦略』の下で創設された。『新成長戦略』は、医療分野においては民間サービスを参入させることにより日本経済を成長させることを目指している。そして、総合特区では税制・財政・金融上の支援措置を講じており、特区からは株式会社の病院経営、混合診療の解禁などの要望が挙がっている。
  • 『日本再生戦略』は、先端医療特区(スーパー特区)を踏まえ、新たに行政区域単位の異なる機関特区を創設する方針である。スーパー特区は、法律ではなく閣議決定によるものである。手法として創設しやすい特区が、さらに行政区域単位を超えて設置されれば、特区は決して限定的なものではなくなっていく。
  • 復興特区については、被災地住民に対する医療提供体制の再構築のための重要な仕組みである。ただし、復興特区は被災地の再生を飛び越えて、究極的には「日本の再生」を目指しており、被災地の医療再生がしっかりと進むのか懸念がある。また、『東日本大震災からの復興の基本方針』に「被災地を始め我が国に対する外国からの投資を促進する」とあることも不安である。やや飛躍するが、同じ時期に進んでいるTPP 交渉への参加問題を思い起こさないわけにはいかない。米国は TPP 交渉参加国に公的医療保険制度の廃止を要求していないとされているが、これまでの米国の要求を振り返ると、日本の公的医療保険を、外資も含む民間の投資対象として市場開放するよう要求してくることは否定できない。
  • 特区の中には、地域活性化、地域再生のために必要なものもある。たとえば、復興特区における医師配置基準の緩和等である。遠隔診療のように、特定の地域で必要性がきわめて高いものである。
  • しかし、すべての国民に係る規制緩和等については、特区での試行にも慎重であるべきである。国民皆保険に係る規制緩和は、厚生労働省も述べているように試行が失敗した場合、一部の住民を危険にさらす。 逆に国が支援して成功に導き、その結果全国展開した場合、そのときには支援はなくなってしまうので、多くの国民が権利を失うことになる。
  • 現在、いくつもの特区が創設されているが、その目的や提案を総合的に勘案すると、医療分野では公的保険範囲の縮小と医療の営利産業化の端緒になる懸念を払拭できない。特区は地域限定の規制緩和だという見方ではなく、日本全体の制度崩壊につながるおそれがあることも視野に入れて、さまざまな動きを一体的に注視していく必要がある。

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