ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 280 2013-05-09

福島県「県民健康管理調査」は国が主体の全国的な
“健康支援”推進に転換を

 

 本研究は、国の原子力規制委員会における、「東京電力福島第一原発事故による健康管理のあり方に関する検討チーム」(以後、「健康管理検討チーム」ともいう)に、福島県医師会木田副会長が選定されたことを受け、その活動を支援する中で、福島県「県民健康管理調査」の問題を中心に、健康管理検討チームの検討過程及び日医総研での別途研究成果を併せて整理・分析したものである。
 こうした研究の結果、次のような四つの「国への提言」を行うものである。

 

 1)国の直轄事業による全国的な健康支援を

 2)ナショナルセンターで健康支援を実現する学際的・総合政策的アプローチを

 3)先進国にふさわしい、全ての国民が共有できるデータベースの構築を

 4)国・東電は責任を持って事故収束・廃炉作業員の健康支援を

 

1)国の直轄事業による全国的な健康支援を
 放射性物質による被害地域は福島県に留まらず、広域にわたって散在しており、避難を余議なくされた多くの福島県民が全国各地に離散している。
 被災した住民自身の健康管理に対する支援は、「放射線被ばく被害」を総合的に捉え、全ての世代が最も身近な医療機関等で健康相談や健康診査が実施され、住民自身が常に健康状態を把握できるという視点に立つ必要がある。
 そして、福島県という行政界の枠を超え、被災した全ての住民、特に子供に対して生涯にわたる健康への支援を実施するために、国が東京電力福島第一原子力発電所事故による住民の健康診査等の健康支援策を、直轄事業として推進すべきである。

2) ナショナルセンターで健康支援を実現する学際的・総合政策的アプローチを
 国が行うべきことは被災者の健康支援で、被災者の不安の解消及び安定した生活の実現である。
 これを実現するため、住民への健康支援は、国が中心となって学際的アプローチや総合政策的アプローチによる被災者支援の総合的な拠点となる「ナショナルセンター」事業を創設・推進する必要がある。
 学際的アプローチは、福島第一原発事故による健康支援の横断的な科学的検証や対応策の確立・支援を促進することである。
 一方、総合政策的アプローチは、行政の縦割りを排し、住民の視点や住民参加にも立脚した行政面での総合支援である。国は関係者の連携や共通理解の醸成、放射線影響に係る人材育成や国民とのコミュニケーション等、放射線影響等に係る総合的な拠点すなわち「ナショナルセンター」の整備により、全国的及び国際的な連携強化を重点的に進めるべきである。

3) 先進国にふさわしい、全ての国民が共有できるデータベースの構築を
 様々な法律に基づいて実施されている健康診査や健康診断の健診データを、福島県一県のみで、なおかつ福島県民のみを対象とした「県民健康管理調査」として、何十年にもわたって長期的に、また国際的な疫学研究等へのデータ提供にも耐えうる仕様を維持し、一元管理することは困難である。現在でも、臨床検査データの「単位」や「測定方法」、「測定値の基準範囲」等の違いを前提としたデータ集積を行っておらず、評価手法も明らかにされていない。
 国は、先進国にふさわしく、被災した住民自身が自らのデータにフリーにアクセスし、電子的健診データの履歴の閲覧が出来る等、住民自身が自らの健康維持・健康管理を行う際に寄与できる、全ての国民が共有できることを前提とした健診データの集積・保存・共有化を図る手法のあり方を早急に確立すべきである。

4) 国・東電は責任を持って事故収束・廃炉作業員の健康支援を
 今後、長期にわたる事故収束・廃炉作業員の健康支援については、労働者に対する健康管理業務の徹底のみならず、低線量被ばくリスクの高い「住民」ととらえた健康支援対策が必要と考えられる。
 加えて、先般、米国等の研究チームは、チェルノブイリの原発事故発生後の清掃作業員を対象とした調査から、低線量長期被ばくに関連した白血病の危険性増加に関する研究報告を発表した。チェルノブイリの原発事故(1986年)から約26年以上経った今、新たな知見が生まれている。今回の事故による低線量被ばくについても、未知の分野として真剣に取り組む必要がある。
 事業規模や作業員の雇用期間等の違いがある中で、協力企業としての全ての事業者に国の指針を求めることは容易ではない。
 現に、2万人に及ぶ作業員の被ばく記録が放射線影響協会に未提出であったことが報道され(平成25年2月28日「朝日新聞」)、東電自身の健康管理業務のあり方が問題となっていることから、多くの作業員の長期的な健康管理については、国・東電が主体的に行なっていく必要がある。

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