ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 288 2013-07-04

医薬品関連企業の2012年度決算
−2012年度診療報酬改定の影響など−

 

  • 2012年度の診療報酬改定率は、全体で0.004%、本体+1.379%(医科+1.55%、歯科+1.70%、調剤+0.46%)、薬価・材料▲1.375%(薬価▲1.26%(薬価ベース▲6.00%)、材料▲0.12%)であった。これに対し、今回分析した大手企業の医薬品関連売上高の伸び率は、先発医薬品メーカー+1.8%、後発医薬品メーカー+12.3%、医薬品卸+2.3%、チェーン薬局(調剤薬局)+10.6%、ドラッグストア+6.6%であり、後発医薬品メーカーとチェーン薬局(調剤薬局)の売上高が大きく伸びた。
  • 売上高増加の理由として、先発医薬品メーカーは、処方日数制限解除対象製品があったことを挙げている。単に処方日数が長くなっても患者数が増加しなければ販売量が変化しないが、処方日数制限解除によって、新たな需要が掘り起こされている可能性がある。
  • 後発医薬品メーカーの増収要因は後発医薬品使用促進政策である。
  • 医薬品卸の増収要因は、薬価引き下げの影響を受けにくい新薬創出・適用外薬解消等促進加算対象品の販売を促進したことによる。こうした動きがあるため、長期収載品の薬価を引き下げても医薬品市場は拡大する。
  • また医薬品卸はこれまで、診療報酬(薬価)改定年には利益率が悪化していたが、2012年度には売上高経常利益率が上昇した。
  • チェーン薬局(調剤薬局)大手の売上高は、調剤報酬改定効果で対前期比10%前後かそれ以上であった。ドラッグストアは調剤部門以外の事業も多いが、調剤部門が牽引し、売上高が増加した。ただしチェーン薬局(調剤薬局)は、新規出店や薬剤師確保のための人件費増加等により利益率は悪化している。チェーン薬局(調剤薬局)は、増加した従事者の人件費をまかなうため、さらなる調剤報酬の引き上げを要求してくる可能性がある。
  • 2012年度の診療報酬改定では、保険薬局における後発医薬品在庫負担を軽減する目的で、「一般名処方加算」が導入されたが、薬局の在庫はかえって膨らんでいる。これについてもチェーン薬局(調剤薬局)が、在庫管理コストをまかなうためとして、後発医薬品調剤体制加算の引き上げを要求する可能性がある。
  • 医薬品に係る民間企業が営利を追求することは当然ではあるが、医薬品関連企業も公的医療保険制度のプレーヤーである。医薬品関連企業が公的医療保険に係る事業の業績(たとえば医療用医薬品事業、チェーン薬局(調剤薬局)事業)を、中医協等に報告する仕組みも必要なのではないだろうか。それを踏まえて貴重な診療報酬財源を医療本体とバランスをとりつつ配分していくことで、将来的に国民皆保険を堅持することにもつながるのではないかと考える。

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