ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 284 2013-07-10

2012年(2011年度)病院における地球温暖化対策
自主行動計画フォローアップ報告
−地球温暖化対策の推進にはエネルギーコスト面の検証が不可欠−

 

  • 本研究は、厚生労働省から求められる「病院における地球温暖化対策自主行動計画フォローアップ報告」に資するための2012年版 (2011年度実績)の研究である。
  • (1) 2011年度CO2排出原単位の大幅な減少
      2011年度のCO2排出原単位の実績は、前年の2010年度比で6.2%減となり、目標とした年率1.0%減を大きく上回って減少し、基準年度2006年度(100.0)比では83.6(年率3.51%削減)となり、年率平均では目標とした1.0%減を大幅に上回って減少した。(表1-1参照)
  • (2) 2011年度CO2排出原単位の大幅な減少の要因
     CO2排出原単位は、2007年度以降対前年比1%以上の減少を続けてきており、一旦2010年度に対前年度増加に転じたが、2011年度に再び減少に転じた。こうした減少に転じた要因としては、下記の点が主要な要因と考えられる。

     

    1. 1) 電力使用制限令の発動と自主的節電対策の実施
    2. 2) 夏期温度が暑くなかったこと
    3. 3) 長期にわたる省エネへの取組み
  • (3) 2011年度CO2排出原単位の増加要因
     一つは重油・灯油から電力・ガスへのエネルギー転換は行われているが、2011年度はやや頭打ちとなっていることがあげられる。
  • (4) CO2排出量全体(総量)の大幅な減少
     このような減少要因・増加要因の結果、2011度のCO2排出量全体(総量)も対前年度比3.1%減少という結果になった。(表1-1参照)
  • (5) 医療業界ではコントロール出来ない電力のCO2排出係数が高まる問題
      しかし、福島原子力発電所事故の影響により、電力におけるCO2排出係数は高まり、これまでのような電力依存度を高めることに大きな課題が生じている。
      すなわち、電力におけるCO2排出係数の高まりは、医療業界ではコントロール出来ない問題であり、ひとえに電気事業者の責任の問題である。
      また今後安価なシェールガスが米国より導入されれば、こうしたガスや石炭を中心とした化石燃料への依存度が再び高まることも予想される。
      国民の命を預かる医療の立場から、地球温暖化対策に積極的に取り組んできた医療側として、今後の動向を慎重に見守っていきたい。
  • (6) 国内クレジット(CDM)制度の早急な改善を
     これまで国に再三改変措置を要望してきた「国内クレジット(CDM)制度」という、CO2削減のための組織的対応方策と大きな矛盾を持った制度 (この制度を活用する医療機関は本自主行動計画に参加しない旨の表明を求められる仕組み) は、早急に改善が求められるものである。
  • (7) 国において京都議定書約束期間後の方針を明らかに
     京都議定書に基づく本自主行動計画の目標年度である2012年度は過ぎようとしているが、厚生労働分野において次の地球温暖化対策を如何に進めていくのかが現在明確になっていない。
     これまで自主行動計画づくりに参画してきた医療業界としても、今後の対応をどうすべきかを明らかにするため、国の方針を早急に明らかにすべきである。
  • (8) 地球温暖化対策の推進にはエネルギーコスト面の検証が不可欠
     地球温暖化対策を推進する基本的方向として、石油・石炭等化石燃料から電気・ガスへの転換を進めるとともに、原子力発電所の停止により再生可能エネルギーによる電力の活用といった方向性を指向している。
    しかし、こうした方向に進めることについては、電気・ガスや再生可能エネルギーにおいてコスト面で大きな問題があることから、医療業界のような電力・ガス等のエネルギーの消費者としては、今後地球温暖化対策を積極的に進めるに際し、中央環境審議会や産業構造審議会等で、供給されるエネルギーのコストが適正かどうか検証されることが不可欠であると考える。

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