ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 290 2013-07-18

原子力発電所災害による全国的な緊急被ばく医療対策に関する研究
—国は50mSv拡散シミュレーションの実施・開示と
原子力災害対策指針の安定ヨウ素剤の配布・備蓄等の再検討を—

 

  • ① 本研究は、第一に原子力規制庁の「100mSv拡散シミュレーション」について問題点の指摘やその再検討、及び原子力規制委員会の「原子力災害対策指針」について、事前配布の対象圏域がPAZに限定されていることや、備蓄を基本としたUPZやPPAにおける、緊急事態における配布方法の問題点とその再検討の方向性等について、明らかにすることを目的とするものである。
    また第二には、原子力発電所の過酷事故に際し、ヨウ素甲状腺ブロッキング(安定ヨウ素剤予防服用に係る防護対策)の基準である「最初の7日間で50mSv」(IAEA基準)の範囲を、原子力発電所から5Km圏・30Km圏・50Km圏別に簡易的・画一的に設定して、そのエリアに対応する安定ヨウ素剤の配布・備蓄・服用が必要な自治体、道府県・郡市区医師会、安定ヨウ素剤の必要量等を明らかにすることにより、これら自治体や医師会における原子力発電所災害への対応方策に資することも併せて目的とするものである。
  • ② 第一の研究目的の、「100mSv拡散シミュレーション」「原子力災害対策指針」については、次の(1)(2)に示すような問題点の指摘や再検討の方向性を示すものである。
  • ③(1) 原子力規制庁は50mSvの拡散シミュレーションの実施と開示を
    原子力規制庁は、避難基準の「最初の7日間で100mSv」だけでなく、ヨウ素甲状腺ブロッキングの基準である「最初の7日間で50mSv」の範囲を、シミュレーションし国民に開示すべきである。
    そして、この50mSv拡散シミュレーションの結果を基に、「原子力災害対策指針」の再検討を行うべきである。また、現状の拡散シミュレーションの前提条件については、一般国民に「97%の確率の表現が十分理解できないため、より分かり易い説明をすることが求められる。
  • ④(2) 原子力規制委員会の「原子力災害対策指針」における問題点とその再検討の方向性
    1) 予想される再稼働認可審査の前に原子力災害対策指針における安定ヨウ素剤の配布・備蓄等の再検討を
    現在の「原子力災害対策指針」は、その検討に際し50mSvの拡散シミュレーションを行っていないとともに、原子力発電所周辺住民の健康を守る視点から不十分であると言わざるを得ず、予想される再稼働認可審査の前に、原子力災害対策指針における安定ヨウ素剤の配布・備蓄等の再検討を行うべきである。
  • ⑤2) 原子力災害対策指針のPAZ(5km圏内)のみ安定ヨウ素剤事前配布は不十 分
    原子力規制庁が開示した拡散シミュレーションから、ヨウ素甲状腺ブロッキングの基準50mSv/週の範囲は、多くの原子力発電所サイトで30km圏を超える可能性が高く、「原子力災害対策指針」においてPAZ(5km圏内)のみ安定ヨウ素剤の事前配布が明示され、PAZ外(5km圏外のUPZ・PPA)は備蓄が基本の対策が示されていることは、住民の安全確保の視点から不十分である。
    さらに、安定ヨウ素剤の投与時期と効果については、「放射性ヨウ素にさらされる24時間前」は「90%以上の抑制効果」があるが、「放射性ヨウ素を吸入した8時間後」は「40%の抑制効果」となり、事前の配布・服用が非常に重要であることからも、不十分である。
  • ⑥3) 原子力災害対策指針のPAZ外(5km圏外のUPZ・PPA)の緊急事態事前配布 は非現実的
    PAZ外のUPZ・PPAにおける緊急事態における安定ヨウ素剤の配布方法について、実際に災害が発生した場合、EAL(緊急事態区分及び緊急時活動レベル)の段階は事前に想定した順序で進むとは限らないと原子力災害対策指針の中でも指摘しており、「緊急事態」においてPAZ内と同様の平時の手順で配布をすることは、大きな問題が発生することが予想され、現実的ではないと考えられる。
  • ⑦4) 3歳未満の新生児や児童のための安定ヨウ素剤の内服液の早急な製造 体制整備と国の製造・販売認可を
    現在内服液は国外メーカーのもののみで、放射線被ばくの予防を用途とする医薬品製造・販売の国の認可を得ていない。
    そのため、早急に放射線被ばくに係る安定ヨウ素剤の内服液を製造する体制を整えるとともに、国の製造・販売認可を取得すべきである。
  • ⑧5) 原子力災害対策指針の中に、医療側に対する最新の災害情報提供と医療側のアドバイスによる自治体の配布・服用指示規定の明記を
    東京電力福島第一原子力発電所事故の際、一部自治体は安定ヨウ素剤を備蓄していたにもかかわらず、そして医療側が提案したにもかかわらず、住民に対する配布・服用指示の決定をせず、せっかく備蓄していた安定ヨウ素剤を活用しなかった。
    安定ヨウ素剤の効果は放射性ヨウ素にさらされる24時間前が最も効果があり、過酷な原子力発電所事故が発生する場合、一刻も早く安定ヨウ素剤を服用すべきであり、服用させるべきである。
    その際、住民や自治体に被ばくに関するアドバイスが出来る専門家は医師である。そして、住民から最も信頼されるのも医師であることが、今回の原子力発電所事故の際に多く見られた。
    以上のことから、「原子力災害対策指針」の中に、適切なアドバイスのための医療側に対する最新の災害情報提供の規定を明記するとともに、医療側のアドバイスにより自治体は住民に対し安定ヨウ素剤の配布・服用指示を行うことについても、明記すべきである。
  • ⑨(4) 5Km圏・30Km圏・50Km圏別調査結果の総合とりまとめ
    第二の研究目的については、原子力発電所から5Km圏・30Km圏・50Km圏別の簡易的・画一的エリアを設定し、そのエリアに対応する安定ヨウ素剤の配布・備蓄・服用が必要な自治体、道府県・郡市区医師会、安定ヨウ素剤の必要量等については、表7-2のような数値が明らかになった。

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