ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 292 2013-07-29

いわゆる“雇用の質向上”論について:
労働環境の改善と人材確保の一体的整備を

 

  • 本研究では第一に、労働環境の改善策を検討する上で基本となる法的枠組みである「労働基準法」を中心とした検討を行った。第二に、労働環境の改善策の柱でもある人材確保の具体策として、全国的な非営利人材紹介システムである、ナースセンター、日本医師会女性医師バンク、公共職業安定所(ハローワーク)の活用状況に加え、近年の注目施策の一つである「短時間正職員・正社員制度」の現況について整理した。
  • 労働環境改善策に実効性をもたせるには、労基法、医療法など関連法規に一貫性を持たせることも検討する必要があり、労基法施行規則に医師の宿日直勤務に関する規定を設けることが考えられる。また、宿日直勤務に対して時間外手当を支給するには、財源が必要である。法を遵守し労働環境を改善するためには、人材確保も必要である。診療報酬体系に反映させること、国家予算をつけた上で都道府県医師会主導による現場を踏まえた人材確保策を促進することが求められる。
  • 人材確保策としては、人材紹介システムの機能強化と短時間正職員制度の導入がある。全国的な非営利人材紹介システムとしては、ナースセンター、日本医師会女性医師バンク、公共職業安定所などがある。本研究で約10年間の公表データを整理した結果、看護職員では2006年度を境に求人倍率が2倍以上の状態が続いており、2012年度は約3倍となった。医師をはじめとする歯科医師、獣医師、薬剤師に関しては、過去13年間で求人数は増加傾向であるのに対し、求職者数は減少傾向にあった。求人倍率も常に5?6倍あり、2012年度は6.7倍であった。
  • 人材紹介システムの機能強化には、全国的なシステムと同時に、国家予算の投入による都道府県医師会主導型の地域に根ざした拠点が必要なこと▽結婚や妊娠、出産、育児などを理由に離職した“潜在医療従事者”について、離職防止、復職支援策を強化・実施すること▽多くの求人を抱える公共職業安定所の福祉人材コーナーの専門性を強化すること——などが不可欠である。
  • 医療機関における短時間正職員制度の導入状況については、これまでは制度の具体的な課題の同定など実態を把握するための研究は少ないのが現状である。本研究では、医療現場における制度導入の実態を同定するため、系統的な文献調査を行った。その結果、制度導入への対応策として、医師については、看護職と同様、育児支援策の整備や復職支援、労働環境の改善策などの必要性が明らかになった。制度が抱える課題としては、男女や子どもの有無にかかわらず、医師が仕事を続けられる労働環境を整備する必要があること、過重労働の常態化への対応が必要であること、労働者としての自覚を持つ機会が少ないことなどがあることがわかった。制度の定着・継続を図るには、医師個人としても、医療機関の経営者や管理者としても、多様な勤務制度を講じることが男女を問わず医師が仕事を続けるための労働環境の改善につながるということへの理解が求められる。
  • 喫緊の課題として取り組む必要があるのは、過重労働常態化への対応である。具体的な対応策としては、複数担当医・主治医制の導入の必要性が指摘されている。この制度を導入するには、人材確保が必要である。現状では、地域や医療機関、診療科によって、人材を確保できるかどうかは異なる。医療機関や診療科ごとに、業務整理・分担を検討、実施することが必要であるのと同時に、都道府県医師会主導で地域の医療現場の現状を把握したうえで、国と協働で人材確保策を促進することが求められる。
  • 労働環境の改善策と人員確保策は“車の両輪”であり、同時並行的に政策を講じることが必要不可欠である。その際には、医療従事者にプロフェッショナルとしての高い倫理性が求められていることを考慮した検討が必要である。

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