ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 306 2013-12-10

自動車事故被害者の医療費をカバーする 2つの公的保険をめぐる問題:
自賠責保険と公的医療保険

 

  • 本ワーキングペーパーでは、自動車事故被害者の医療費負担をカバーするために2つの公的保険(自賠責保険と公的医療保険)が使える現行制度の問題を整理・分析し、問題解決の方向性を議論した。本来、自動車事故における被害者の医療費は、自賠責保険および民間の自動車保険でカバーするべきであるが、公的医療保険が使われ、最終的にも公的医療保険の負担になっている場合がある。この状況下では、保険会社が公的医療保険を使わせる動機を持ち、公的医療保険財政の負担となっている。同時に、被害者に対する負担も強いており、制度として変革する必要がある。
  • この問題に起因する公的医療保険の直接的な負担は、少なくとも年間約118億円と推定される。この負担の大きさは協会けんぽの一般管理費の1年分の大きさに相当する。国民医療費全体から見れば大きいわけではないが、無視することはできない。これ以外にも、保険会社の支払い打ち切りによって、交通事故に起因する医療費を公的医療保険が負担しているケースが存在することも、同じく無視できない。
  • 自動車事故被害者の医療費をカバーする2つの公的保険の制度設計について国際比較調査をすると、日本だけが特殊な制度になっているわけではない。しかし、2つの公的保険を選択可能であるという点に限っては、日本独自の制度であり、明確な制度運用の切り分けは一考に値するだろう。
  • 法的側面については、交通事故損害賠償の類型化の弊害があり、保険会社の利潤追求動機から、被害者に医療費負担が強いられている現状がある。
  • これらの問題の整理・分析を踏まえ、制度改革の方向性として5つのオプションを提示した。強制加入で運営される公的保険では、社会に存在する普遍的リスクに対して、真の被害者救済につながるような制度設計と運用が求められる。

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