ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 310 2014-03-10

医薬品卸のM&A戦略の検証:
2007年度〜2012年度の決算分析から

 

  • 近年M&A等の業界再編が著しく進んだ医薬品卸業の経営動向を探るべく、医薬品卸大手4社の07年度〜12年度決算を対象に、継続的問題意識を持って経営分析を行った。
  • 収益性:売上高と売上総利益については、期間中、概ね増収増益傾向が続いた。ただし、売上高売上総利益率は、期間中、11年度までは微減の傾向が続いた後、2012 年度には若干上昇した。大手4社の連結利益(営業利益、経常利益、純利益)については、期間中、08年度と10年度に落ち込んだものの、11年度以降は上昇傾向に転じた。07年度の水準にまでは至っていないものの、それに近い利益水準にまで回復している。
  • 安全性:長期〜短期の経営の安全性を示す指標を見ると、期間中若干の上下動はあるものの、ほぼ横ばい傾向が続いている。有利子負債残高および借入金依存度を見ると、09年度に大きく上昇し、その後下降傾向となっている。12年度にはともに2007 年度を下回る水準にまで下がっている。フリーキャッシュフローの状況を見ると、10 年度以降はプラスの状況が続き、12年度には+1,867億5,600万円と大きくプラスになっている。
  • 効率性・生産性:企業再編の動きが進むにつれ、総資産額は増加傾向であるが、総資産回転率、有形固定資産回転率、従業員一人当たり売上高を見ると概ね横ばい〜微増傾向を維持しており、企業規模(資産規模・従業員規模)に見合った売上を確保していることが分かる。他方で、企業規模(資産規模・従業員規模)に見合った利益の確保という点(総資産経常利益率・純利益率、従業員一人当たり売上総利益・経常利益)では、期間中、各社とも苦戦している。ただし、最近(11年度と12年度)は回復基調にある。
  • 成長性:売上規模、資産規模、従業員規模は、期間中一貫して増加基調である。他方で、利益(売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益)については、期間中、07年度→08年度、09年度→10年度の2度のタイミングで、落ち込みを経験したが、それ以降(11年度と12年度)は、増加基調が続いている。
  • 今後は薬価引き下げの継続に加えて、消費増税を控えており、これまで以上に、医薬品流通に関わる価格交渉が激化することが予想される。医薬品卸企業をはじめ、製薬企業や調剤薬局がM&A等の大規模化戦略を取る一方で、医療機関に医療費抑制・薬剤費抑制政策の皺寄せがさらに集中する懸念もある。そのような事態が医療機関経営をさらに圧迫し、地域医療の崩壊に繋がることのないよう、医療機関マネジメントの視点から3つの提言を行った。

ダウンロード  (約 650 KB)