ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 317 2014-05-15

新たな財政支援制度「基金」の活用に向けて
-地域医療再生基金の振り返りー

 

  • 今年度、新たな財政支援制度(基金)が創設されたことを受けて、これまでの地域医療再生基金の活用の実態を振り返った。
  • 地域医療再生基金は、いわゆる「ハコモノ」 (とくに施設整備、医療機器)に活用された事例が多いが、「ヒト」や「ソフト」に活用された事例も少なくない。救急医療では退院調整コーディネーターの配置や開業医が当番制で救急医療センターでの診療を行うことへの支援、在宅医療では地域医師会主導のさまざまな事業に活用されている。
  • 「ハコモノ」の中では、地域医療再生基金が病院の再編・統合に活用された例もある。病院の再編・統合等には、多額の資金も必要であり、地域医療再生基金が地域の医療提供体制の改革にある程度寄与している。
  • しかし、地域医療再生基金は、病院の再編・統合、増改築をはじめとして、投入対象が公立・公的医療機関に偏っており、民間医療機関が取り残されているように見受けられる。国は都道府県に対して官民公平に配分することを求めていくとしているが、過去の地域医療再生基金を見る限り、「基金は民間中心に活用する」といった姿勢で臨まなければ、なかなか公平には行き渡らないのではないかと懸念される。
  • 地域医療再生基金の活用事例の中には、それを実施することによって、より高い診療報酬を獲得できるものもある。医師事務作業補助者や PT (理学療法士)を地域医療再生基金で雇用しているケースがあり、この結果、診療報酬上の加算を算定できているものと推察される。新たな基金については、「診療報酬や他の補助金等で措置されているものは対象としないこと」という留意事項が示される予定であるが、今後、診療報酬と基金をどうすみわけるか、財源をどう配分するかが課題である。
  • 診療報酬は医療機関の経営判断(努力)によって算定するかしないか (算定できるかできないか)が決まるが、基金については、経営者個人が投入額を決めることはできない。今回の新たな基金の創設は、医療費財源に対する個々の経営判断の影響を薄くし、医療費財源の配分の一部を地域の判断に委ねたという点で大きな転換であった。今回の基金および診療報酬改定は、地域の中でどう生き残るか、地域で協力して考えるようにという医療機関に対するメッセージであったといえよう。

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