ワーキングペーパー

ワーキングペーパーNo. 325 2014-10-16

原子力災害に備えた安定ヨウ素剤の事前配布と付随する諸課題
— 鹿児島県における安定ヨウ素剤事前配布等の事例報告 —

 

【背景】
国は、福島第一原発事故の教訓を踏まえて原子力災害対策指針を見直し、原子力施設
から半径5km圏内(PAZ)の住民に対して安定ヨウ素剤の事前配布を決定した。鹿児島県は全国に先駆け、
本指針に基づく事前配布を実施した。

 

【目的】
「①鹿児島県における事前配布の実績」および「②事前配布に付随する諸課題」を明らかにする。

 

【方法】
鹿児島県「安定ヨウ素剤の配布に関する説明会」(平成26年7月17日開催)の視察および
鹿児島県保健福祉部薬務課、鹿児島県医師会、川内市医師会へのヒアリング(平成26年8月11日)を行った。

 

【結果】
①鹿児島県における事前配布の実績
◆鹿児島県は、平成26年6月から7月にかけて薩摩川内市との共催により半径5km圏内の3歳以上の
住民(4,715人)に対する事前配布を行った。
◆医師のプロトコルに基づき保健医療関係者の関与の下で配布対象者の選定がなされた結果、
対象者4,715人のうち2,756人の問診票が確認され、そのうち「配布対象者」は2,661人(96.6%)、
「受診勧奨者(甲状腺疾患や人工透析等)」は47人(1.7%)、「不配布者」は48人(1.7%)であった。
「不配布」の理由について、9人はヨウ素過敏症等のため医師により服用不適と判断された方、39人は
本人による受取辞退であった。安定ヨウ素剤の配布率は、対象者4,715のうち2,420人(51.3%)であった。
◆地元の川内市医師会は、専門家による安定ヨウ素剤に関する勉強会の実施、説明会への医師派遣、
住民のわかりやすさに配慮した説明資料の改訂、受診勧奨に対する契約医療機関の募集と協力依頼、
契約医療機関のための相談体制の構築の点で行政に協力をした。
◆住民からは、配布の時期が全国で一番早かったので良かったという評価があった。
一方、安定ヨウ素剤の保管場所や原子力災害時の安定ヨウ素剤の服用指示の情報伝達について危惧する
声があった。

 

②事前配布に付随する諸課題
 事前配布に付随して、迅速かつ正確な情報伝達、原子力災害時における医師会からの医師派遣体制の不在、
実効的な避難計画の策定に関する課題があがった。

 

【結論】
◆鹿児島県における事前配布の配布率は、6月7月実施結果では半数を超え、9月の追加実施も加味すると
諸外国のそれとほぼ同等の結果にまで伸びた。その過程には、住民の視点を第一に考えた様々な工夫が
凝らされている点もあり、今後実施する全国各地の自治体や医師会にとって有益な基礎事例であると考える。
今後、問診票未確認者への対応、今後配布対象となる住民(現在3歳未満や今後生まれてくる乳児)や
有効期限(3年)に伴う更新に対する持続可能な管理体制の検討が必要である。
◆事前配布にはその配布率や災害時の実効性に一定の限界がある。これに対する補完策および
UPZ内の住民の放射線防護対策として、半径30km圏内には安定ヨウ素剤が備蓄されている。
これら平常時の準備を活かして災害時の実効性を担保するために、避難計画の策定と相まって、
備蓄の配布体制の検討および国によるPPA(半径30km以遠)の範囲や防護措置などの具体的な方針の提示は
今後の課題である。

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