リサーチレポート

リサーチレポートNo. 137 2024-01-29

人生の終末期に高齢者らが抱く「他者の負担になる」という意識
――日本と諸外国のデータ概観――

田中 美穂     

 

要旨

 

  • 本稿は、世界規模で進む高齢社会における死や死にゆくことのあり方を倫理的な観点から検討するために、高齢者や人生の終末期にある人々が「他者(家族や社会)に負担をかけている」と感じる意識とはなにか、そして、他者に負担をかけているという意識が臨床実践や法政策にどのような影響をもたらしているのかを検討するための基礎資料として、日本や諸外国において実施された公的な意識調査や先行研究において示された実証データをまとめたものである。
  • 日本の複数の意識調査は、「他者に迷惑をかけたくない」という意識が、特に人生の終末期にどこで療養するか、どこで最期を迎えたいか、という点に影響を及ぼしている可能性がある、ということを示唆していると言える。
  • これまでの意識調査の多くは、一般市民、および、遺族を対象にしていた。これらの調査は、患者(将来的に患者になる可能性も含めて)の側が家族らに負担をかけている(かけるであろう)と思っていたかどうかを一定程度明らかにしている。一方で、家族の側がどう受け止めているのか、負担になる(であろう)と考えていたのか、患者の思いと家族の受け止め方は一致するのか、ということはよくわかっていない。
  • 患者が自らの希望を実現し、それを支える家族に対して「迷惑をかけている」という意識を減じるためにはどうしたらいいのか、という課題がある。患者とその家族の両方の精神的・身体的負担を減じる必要があるだろう。そのためには、国の制度や地方自治体等の公的支援、民間団体等の介護支援、人々の意識等さまざまな側面からの検討が必要であると考える。具体的には、現状の医療・介護・福祉に関連する法律やそれに基づいて講じられる政策を改善する必要がある。

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