リサーチレポート

リサーチレポートNo. 134 2022-11-18

営利企業による医療法人の持分取得・経営支配 :
税務・会計専門家へのインタビュー調査から

坂口 一樹堤 信之原 祐一

 

 

要 旨

 

◆本稿では、(1)小泉政権下の医業経営への株式会社参入論争の結果、持分あり医療法人の持分放棄の方針が出されたが順調に進んでいない、(2)医業承継が円滑に進まず、地方の医療機関が廃院に追い込まれている等の現状認識の下、株式会社等の営利企業が医療法人の出資持分を保有し、医療機関の経営に影響力を及ぼしている事例について、その動機や背景事情の探索を目的として、医療に詳しい税務・会計の専門家へのインタビュー調査を行った。

 

◆主な調査結果は次の通りである。

  • 営利企業が持分あり医療法人の出資持分を取得するケースが増えているとの見解で一致していた。医業承継問題が契機となっている事例が多い。特に地方経済において、他に成長産業が存在せず、資金の出し手と有望な投資先がともに限られているという背景事情もある。
  • 営利企業が出資持分を保有する目的・動機としては、(1)利潤追求、(2)本業の相乗効果、(3)名誉や社会的地位・信用の獲得、の3つが考えられる。
  • 営利企業が医療法人の経営に影響を及ぼすには、出資持分の保有だけでは十分でない。そこで、社員総会の統制と不動産の賃貸借関係を通じて、医療法人の経営を実効支配するというやり方が取られることが多い。
  • 営利企業による出資持分保有は、持分なし医療法人への移行の阻害要因になる等、医業経営の非営利性・公益性の担保の障害になりうる。今後も、出資持分の保有や不動産の賃貸借関係を通じて、営利企業が医療法人を実質支配するケースがますます増えるのではないかとの見方が一致していた。

◆以上を踏まえて、医業経営の非営利性・公益性の担保という観点から考察を加え、①営利企業による医療法人の出資持分保有への行政の監視強化、②営利企業から経営支配されている医療法人の実態把握、③出資持分放棄についてのさらなるインセンティブ設置、の3点を提言した。

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