リサーチレポート

リサーチレポートNo. 130 2022-06-15

医療機能の「集約」と「分散」の在り方について

村上 正泰

 

  • 今後の医療提供体制を考える上では、高度急性期機能のような、医療資源を多く必要とする専門的な医療は広域的に拠点となる基幹病院への集約化が必要になる。他方で、日常的で頻度の高い医療ニーズに対応する診療機能は、ある程度の身近な地域で確保する必要がある。その線引きは一律的ではないが、少子高齢化・人口減少に伴って変化する医療ニーズに対応する上で、地域の患者数や医療資源の状況にも応じながら、「集約」すべき機能と、ある程度は「分散」する機能のバランスを考えることが重要である。

 

  • ICU管理料、HCU管理料、救命救急入院料算定病床について、病院別の病床数の分布を見ると、首都圏1都3県でも東北地方6県でも、3分の1強の病院が1桁しかない。機能が少しずつ分散している体制では、1病院当たりの重症患者への対応能力が限定的になってしまう。高度で専門的な診療密度の高い医療については、必要な診療体制を組むためには医療資源を集中投入しなければならず、集約化が不可欠である。

 

  • 他方、大学病院本院に準じた診療密度や一定の機能を有しているとされるDPC特定病院群の中にも、それほど密度の高い医療を必要としない誤嚥性肺炎患者がかなり多く入院している病院がある。誤嚥性肺炎の患者が専門性の高い大規模急性期病院に集中することが地域の役割分担の状況として適切と言えるのかは考える必要がある。高齢化に伴って、誤嚥性肺炎などの高齢患者の増加も見込まれている。むしろ、住み慣れた地域で患者の治療や療養生活に継続的に関わる「地域密着型医療機関」がこうした患者に対応していけるような役割分担と連携の強化が望まれる。

 

  • 山形県におけるDPCデータ分析からは、予定入院・手術の「待てる急性期」は救急搬送入院の「待てない急性期」よりも集約化が進んでいる現状や、病院の再編・ネットワーク化を進めた場合でも、基幹病院への集約化だけに目を奪われて、住民の身近な地域において初期診療や回復期・慢性期機能の入院医療を提供する「サテライト施設」に適切な機能を確保できていないと、むしろ基幹病院の診療機能も不明確になりかねないことなどが確認できた。

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