リサーチレポート

リサーチレポートNo. 122 2021-12-24

「第23回医療経済実態調査報告-令和3年実施-」について

前田 由美子

 

総論

1.診療報酬による特例的な対応があったものの、医科では、コロナ補助金を除く損益差額率は大きく悪化した。コロナ補助金を含んだ損益差額率も、一般病院ではほぼプラスマイナスゼロ、一般診療所では前々年(度)よりも縮小した。

2.一般病院(国公立を除く(公立病院はもともと赤字が多いため))、一般診療所(医療法人)ともにコロナ補助金がなければ約半数が赤字になるところであった。

3.長期借入金残高は一般病院で5千万円近く、精神科病院で約3千万円、一般診療所(入院収益なし)で約4百万円増加した。

4.今回は、新型コロナウイルス感染症の直近の影響を把握するために6月単月調査を実施している。6月単月調査は、過去の「医療経済実態調査」で採用されていたが、精度が低く、直近2事業年(度)の調査に切り替えられた経緯がある。今回の6月単月調査結果もおよそ架空の数値で構成されたものである。

 

病院

5.一般病院では、診療報酬の特例分を含めても医業収益が減少した。コロナ補助金によって、重点医療機関やコロナ入院患者ありの病院では損益差額率がプラスになったが、それ以外はマイナスであった。

6.コロナ補助金を除く損益差額率は、急性期一般入院料および地域一般入院料横並びで悪い。急性期一般入院料1は、コロナ補助金を含む損益差額率がプラスになったが、コロナ入院患者を受け入れているところが多いためと推察される。急性期一般入院料1以外はコロナ補助金を含む損益差額率もマイナスである。

7.療養病床の多い病院は比較的コロナの影響が少ないが、療養病棟入院基本料2は給与費率がさらに上昇し、赤字で推移している。

 

一般診療所

8.一般診療所では発熱外来やコロナ患者を受け入れた施設で損益差額率がより低下し、コロナ補助金で挽回することができていない。

9.在宅医療においても診療報酬の特例措置がとられたが、在宅療養支援診療所の損益差額率は低下した。

10.院内処方は院外処方に比べて損益差額率が低い。

11.医療法人の小児科、耳鼻咽喉科では診療報酬の特例およびコロナ補助金を含めても損益差額率はマイナスであり、診療報酬(保険診療)への依存度が高い耳鼻咽喉科で、より損益差額率が悪化した。また医療法人の小児科はコロナ前から損益分岐点比率が約95%と、減収への耐性が脆弱な状況にあった。

 

保険薬局

12.店舗数が多い薬局は処方せん枚数が増加し、かつ売上総利益率が上昇しており、大手チェーン薬局の営業力、価格交渉力の高まりがうかがえる。一方、1店舗薬局の損益差額率は水面上ぎりぎりに低下した。

 

給与

13.病院、一般診療所ともに病院長(または院長)および医師給与が低下した。看護職員の給与はほぼ横ばいであった。

14.公立病院ではもともと高い給与費率がさらに上昇し、療養病床を有しない公立一般病院で60%を超える水準になった。

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