リサーチレポート

リサーチレポートNo. 118 2021-11-10

新型コロナウイルス感染症の病原体検査について

森井 大一

 

  • 病原体検査は検査前確率及び感度・特異度を基に検査後確率を推定する行為であり、医療者でなければなしえないレベルの複雑性がある。
  • 検査前確率の推定のために、直近5日間の都道府県毎の感染者数を基として、各都道府県における基準時点での推定有病率を算出することができる。
    推定有病率={(直近5日間の陽性確認者数)×2+(直近1日間の陽性確認者数)×15}÷人口
  • 薬機法の承認を受けた新型コロナウイルスの抗原定性検査キットが薬局で購入可能となったが、抗原定性検査キットをOTC(あるいはその類似制度)化することで、一般国民が新型コロナウイルスの病原体検査にアクセスしやすくなるメリットがある。
  • 抗原定性検査キットのOTC(あるいはその類似制度)化に対する懸念事項として、医療機関が介在しないことにより、検査結果についての正しい解釈が行われる機会が失われること、及び陽性例が報告されずに未捕捉のまま放置されること(流行実態の潜伏化)等が考えられる。
  • 医療者が実施するPCR検査・抗原定量検査で鼻腔検体が認められていない中で、一般人が行う抗原定性検査という劣位の検査で鼻腔検体が認められる根拠がない。
  • どのような購入希望者に対して販売するのかを薬局薬剤師が決定することは実質的に検査対象者を選ぶことになり医師法17条違反の疑いがある。
  • 非医療者である一般の購入者が自分で検査のタイミングを判断し、その結果を判断することは違法適法以前に不適切である。
  • 検査の利便性とその利用に係る専門性の均衡を政策的に議論し決定すべきであるところ、事務連絡という行政内部の文書で本件のような重要な決定を行うことは、改正感染症法で、新型インフルエンザ等感染症の一つとして、1類感染症よりも重い位置づけを新型コロナウイルス感染症に付与したことと整合しない。
  • 抗原定性検査キットの安易なOTC(あるいはその類似制度)化がHIVやインフルエンザ等の他の感染症にも波及すれば、医療の専門性が一層ないがしろにされ、国民に無用の混乱を強いる恐れがある。

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