リサーチレポート

リサーチレポートNo. 111 2021-09-10

薬剤を中心とした保険給付範囲見直し論について

 

  • 医療改革の議論の中で、保険給付範囲を見直す(縮小する)方向での提案が目立つようになっている。新型コロナウイルス感染症への対応による財政状況の悪化を受けて、今後、医療費抑制を求める声がますます強まることが懸念される。こうした危機に乗じて、「火事場泥棒」的に急進的な市場原理主義的改革が行われる危険性もある。
  • 保険給付範囲のあり方については、「必要かつ適切な医療は基本的に保険診療により確保する」という国民皆保険の基本的理念に照らして考える必要があり、「必要かつ適切な医療」を給付範囲から除外するような見直しは決して認めるべきではない。「大きなリスクは共助、小さなリスクは自助」で対応すべきとの考えも、公的保険として適切ではない。
  • 何をもって軽症、重症を線引きするのかをアプリオリに決めることは難しく、軽症なのか重症なのかも診療の結果として決まるものである。たとえ当初は軽症であっても、適切な診療がなされなかった結果、重症化する危険性もある。個別事例における必要性・適切性に関する判断と制度上の給付範囲の問題は、峻別して考える必要がある。
  • すでに3割負担は国際的に見ても患者負担割合として高い水準に位置しており、保険給付範囲を縮小することは、より一層の患者負担増、ひいては必要な受診の抑制を引き起こすことになりかねない。負担を給付から患者負担に移し替えるだけの単なるコスト・シフトは、本来的な意味での効率化とは何の関係もなく、政策手段としても不適切である。
  • 薬剤を中心とした保険給付範囲の見直し論としては、①OTC類似薬の保険適用除外、②薬剤の種類に応じた患者負担割合の設定、③参照価格制度の導入、④高額薬剤・医療技術の保険適用除外、などが提案されているが、いずれの提案にも深刻な問題が多く存在している。

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