リサーチレポート

リサーチレポートNo. 112 2021-09-10

予算制・医療費給付率調整について

 

  • 最近、財務省は、医薬品に限定する形での予算制の導入や、経済・人口の動向に応じて医療費の給付率を調整する仕組みの導入を提案している。しかし、わが国においても、2000年代初めに「伸び率管理」と呼ばれる仕組みの導入が提案され、大きな議論を巻き起こしたことがあるが、多くの問題点が指摘され、実現しなかった。その議論の経緯を十分踏まえる必要がある。
  • 過去の伸び率管理を巡る議論で明らかになったように、医療給付は、その性質上、一律に枠をはめることは困難であり、マクロ指標ありきで管理しようとすると、過度な患者自己負担を求めるか、医療の質の低下を招き、国民の健康水準が低下する恐れがある。
  • 医薬品予算制や医療費給付率調整など、最近の財務省による提案は、伸び率管理とは異なる仕組みであるが、医療給付に何らかの水準ありきの基準を定める点では共通しており、結局は給付費から患者本人へと負担が転嫁され、必要な医療を受けることが阻害される危険性が高い。手法の違いや程度の差はあるとしても、伸び率管理について指摘された問題点は同様に当てはまる。
  • 諸外国では、何らかの形で予算制や伸び率管理の仕組みを導入している例が見られる。それらの中には一定の効果があったと評価されるものもあるが、他方で目標実現に向けた具体的な方策や、目標値から乖離した場合の対応を含め、実効性を担保するための枠組みなどで、課題も多く指摘されている。
  • 財務省が提案している予算制や医療費給付率調整を含め、予め定めた総額(または伸び率)ありきで管理しようとする手法は国民皆保険を揺るがすものであり、適切ではない。

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