リサーチエッセイ

リサーチエッセイNo. 76 2019-09-02

公的年金の運用状況と「財政検証」への注目点

 

公的年金は医療・介護と共に社会保障の両輪であるが、我が国の公的年金は巨額な積立金により、今後100年近く、年金給付を下支えしていく構造になっている。

 

2018年度の積立金の運用資産の収益率は+1.52%、収益額は+2兆3795億円、2018年度末における運用資産の総額は時価ベースで159兆2154億円であった。

 

公的年金の積立金は、年金財政の仕組み上、賃金上昇率を上回る運用利回りが必要であるが、最近の運用実績は「財政検証」の前提利回りを上回っており、将来の給付を賄う上での「のりしろ」ができていると考えられる。

 

しかし、それにより制度上の問題点や将来的な財政リスクが消えたわけではない。運用資産構成では、内外株式や外国債券の割合が高まっており、リスクベースで大幅にリスクが増加している。マイナス金利政策が続き、安全資産とされる国内債券への投資が困難になり、資産割合の調整を機動的かつ十分に行えなくなっている。

 

こうしたことはアベノミクスの下での運用の限界を示しているとも言える。将来の確実な給付を考えた時、「のりしろ」があるうちにリスクを減らした運用の方向性を考えていくべきではないだろうか。

 

今年は5年に一度の公的年金の「財政検証」の年である。

 

できるだけ現実的で蓋然性の高い前提等に基づいた検証が行われることが肝要であり、その結果としての厳しい将来の姿もしっかり受け止める必要である。

 

結果の考察においては、「サラリーマンの夫+専業主婦」世帯を「標準」と考えるのではなく、世帯の多様性を見据えた分析が不可欠である。

 

また、働き方改革と絡めて、持続可能で健全な公的年金制度を考えていく必要に迫られており、この点に関しても、どのような試算が行われ、どのような帰結が得られているのかは、政策への連関の点から重要である。

 

我が国の公的年金は制度面も運用面も課題が山積みであり、その先行きは楽観できない。足元の運用成績に寄りかからず、課題等を丁寧に議論し、真の意味で「100年安心」な公的年金の実現に向け、知恵を出し合うことが求められている。

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