リサーチエッセイ

リサーチエッセイNo. 89 2020-09-08

公的年金の運営状況についての考察
~「財政検証」に基づく制度改正と医療分野等への影響~

 

  • 2019年に公的年金の直近の「財政検証」が実施され、そこで将来的な給付水準の低下等の問題点や政策課題が示されたことを踏まえ、制度改正が行われた。
  • 厚生年金と公的医療保険である「健康保険」は原則セットで運営されている。
    今回の制度改正の一つに「厚生年金の被用者の適用拡大」があるが、厚生年金で被用者への適用が拡大されれば「健康保険」でも拡大されるため、この改正は医療保険制度や医療経営にも影響を与える。
  • 適用拡大の対象となる企業(医療機関を含む)においては、健保・年金保険料の事業主負担の増加や保険適用に関する事務処理が発生する。
    また、協会けんぽや組合健保は、加入者増による保険料収入増に比べ、保険給付費の負担増が大きくなるため、財政は悪化する可能性が高い。
  • 公的年金の脆弱化は、医療・介護や公的扶助等の運営に悪影響を及ぼす。
    「公的年金」の水準が低下すれば、高齢者の実質収入が減り、医療費支払がままならず、医療機関への受診が十分に行われなくなる可能性がある。また、低年金・無年金の増加は生活保護等の増加を招き、別の財政負担の原因となる。
  • 安定的で確実な「公的年金」と「健康増進・健康長寿」を担う「医療」は相互に支え合う関係である。
    充実した公的年金の受給のためには、適切な就労とともに「健康増進」「健康寿命の延伸」の実現が重要であり、医療・介護が果たす役割は大きい。
    逆に、生涯にわたる安定した公的年金システムは、国民の「健康・長寿」にプラスの影響を与え、国民生活と社会経済の好循環をもたらす。
  • 「医療保険制度」の維持発展のためには、「公的年金」の健全な制度運営が不可欠である。

ダウンロード  (約 2 MB)