リサーチエッセイ

リサーチエッセイNo. 90 2020-09-08

公的年金の運営状況についての考察(補論)
~積立金運用の現状の問題点と医療分野等への影響~

 

  • 我が国の公的年金は、約155兆円(2019年3月末)の巨額積立金からのキャッシュフローで給付を支えする構造になっており、その動向は公的年金、ひいては医療や社会保障全般の運営に懸念を生じさせかねない。
  • 2019年度公的年金積立金の運用は、年度末にかけての新型コロナ禍発生により、約8兆3千億円の損失を計上した。
  • 年金積立金の運用では、財政的に必要とされる利回りを上回る必要がある。
    問題は、高い利回りを達成するには、株式等のリスクが高い資産を増やす方向に向わざるを得ないことである。
  • アベノミクスのもとで運用の「基本ポートフォリオ」の見直しが行われ、安全資産とされる国内債券中心から、リスク資産の内外株式や外国債券を大幅に増やす資産構成にシフトしてきた。
  • 直近の「基本ポートフォリオ」でも、将来必要な積立金額を確保できない確率は約40%ある。
  • もし大幅な損失が続けば、厳しい国家財政の中で、積立金を給付財源としている公的年金、ひいては社会保障全般の運営に少なからぬ影響を及ぼす。
    特に損失の回復が遅れた場合、問題は深刻化しかねない。
  • 運用の多様化や高度化を否定するものではないが、公的年金の使命として、将来の国民への確実な給付を考えた場合、超高齢化の進捗状況等も鑑みながら、長期に安定したリターンが得られるインフラ投資等を勘案しつつ、全体としてリスクを減らした運用の方向性を考えていくべきではないか。

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