資料・書籍・その他

資料・書籍・その他 2001-11-29

フランスレポート|フランス政府:私立医療機関に
17億フランの助成金追加支給を決定!

2001年11月26日

【概要】
フランスの医療費は、総枠予算制度で決められている。この分配をめぐって、今月上旬、私立病院・クリニック(以下、両者を合わせて「私立医療機関」とする)の院長、および医師代表が助成金の増額を求めた。

 

私立医療機関側の主張は、「国民の健康を守るという目的は、公的医療に参加する私立医療機関も公立病院も同じ。患者の意思による医療機関の選択の自由という権利を守るためにも、政府は、私立医療機関も公立病院と同じように援助すべき。」というもの。

 

政府もこの訴えを認め、17億フランの助成金追加支給を決定し、ストは終結となった。
今月の最も大きなトピックスと言えよう。
なお来月には、個人開業医・インターンのストが予定されている。

 

 

【リポート】
フランスでは、毎年10月の次年度予算案で、各柱(公立病院、私立医療機関、社会福祉医療施設、開業医)の総枠予算案が発表されると同時に、公立病院、私立医療機関、開業医の順で、労組主導型の大々的なストライキが行われる。
このストでは、当然ながら、各柱の医療機関代表が「予算案で発表された数字では不足である」と主張し、政府側も折れ、数字が上方に修正される。毎年恒例のパターンで、すっかり茶番化している感すらある。

 

今年も、私立医療機関側代表であるFHP(Federation Hospitalisation Privee・私立病院連盟)、CNMC(Coordination Nationale des Medecins exercant en Clinique・全国クリニック勤務医師コーディネーション)は、助成金の増額を求めて、10月25、26日にストに入り、更に11月5日には、「無期限」ストに踏み切ると発表した。
具体的にストライキとは、緊急性のない新規患者の受け入れ拒否、新規入院の拒否および公立病院への誘導、等を指す。残念ながら、実際どのくらいの率でこのストが実行されたかという正確な数字はない。しかし、組合側の発表によれば、60%の私立医療機関が参加した地方もあるという。(しかし、国民が、地域に密着した中小規模の民間クリニックによる、緊急性がないとはいえ患者を拒否する姿勢を、肯定的に捉えたとは考えにくい。この為、実際にストを実践した医師はこの数字より少ないのではないか、と思われる。) 1997年以来、私立医療機関の予算も雇用連帯相の監視下にあるが、公立病院ほど援助されていないことから、私立医療機関側は、60億フランを政府に求めていた。
公的医療に参加する私立医療機関の国民の健康を守るという役目は、公立病院と何ら変わりはない。また患者の意思による医療機関の選択の自由を守る上で、その確固たる存在価値を自負している。私立医療機関代表者と野党右派議員によれば、現左派連合政権は公立病院優遇色が濃く(現に次年度公立病院予算も大幅に増額された)、これは医療の不平等を生む危険がある。

 

今回の私立医療機関院長、医師らの代表側による訴えは、「公立病院勤務の看護婦(士)と私立同職員の給与格差是正の為に、政府は私立医療機関を助成すべきである」というものであった。
フランスでは、週35時間労働制が法制化され、公立病院の看護婦(士)の待遇は、時間・給与の面で私立医療機関のそれより優位であり、今年に入ってから、多くの看護婦が公立病院へと流れ、深刻な人員不足に悩まされている。私立の給与も公立と同等レベルまで引き上げたいが、経営上困難であり、国の援助が不可欠といったところである。

 

11月6日、ギグー雇用連帯相は「17億フランを追加支給する」と発表。組合側もこれを受けて、翌7日にはストが解除された。結果、私立医療機関への助成金総額は、既に見込まれていた14億フランとあわせて、31億フランとなった。内訳は、私立医療機関近代化基金としての6億フラン、看護職員給与格差是正のための5億フラン等である。
この代償として、政府は私立医療機関側に、「ARH(Agence Regionale de l’Hospitalisation・地域病院機構)へ活動内容を開示し、情報の透明性を強化すること」を要求した。

 

しかし、実際にストを率いる私立医療機関の医師は、公立病院勤務医師より高給であり、給与が公立病院より低いとされる私立医療機関の看護婦(士)が、今回ストに参加することはなかった。
また、問題とされた看護職員の給与格差そのものも、個々の医療機関や専門によって異なっており、経営状況の良い私立医療機関では、公立よりはるかに待遇が良い所も多々ある。 この為、総枠予算という大まかな計算法でいかに公正に援助金を分配するかが、政府にとっての問題であった。しかし、この分配は、私立医療機関最大手労組(ロビー)であるFHP会長Dr.マックス・ポンセイエの手に委ねられ、組合側の合意を得て一件落着となった。