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資料・書籍・その他 2001-08-14

フランスレポート|フランス社会保障財政2000年結果、2001年予想

フランスの2000年度の社会保障金庫全体としての収支結果は、5.2ミリヤード・フラン(以下、MFと表示)黒字の好成績であるにも関わらず、 疾病金庫部門に関しては、6.1MFの赤字であった事が、今月8日、ギグー雇用・連帯相、クシュネール保健相によって発表された。

 

社会保障の各柱、疾病(−6.1MF)、労災(+2.4MF)、老齢年金(+1.0MF)、家族手当(+7.9MF)がその内訳である。

 

ギグー相前任のオブリー相が当初発表していた「次三ヵ年で、薬剤全体の20%にあたる1,100種の薬品の、無効あるいは効果寡少のものの 価格引き下げと保険償還取り消しあるいは減率を行う」という政策路線は、多少軟化された形ではあるが引き継がれ、フランス保健商品衛生安 全協会AFSSAPS(Association Francaise de Securite Sanitaire des Produits de Sante)と共同作業で、835品が指摘された。(その表現も「<無効化薬品」から、 「貢献度不十分」に改良された。)
薬品名は、関係者に通達されるが、一般公表はなかった。
これにより、薬剤費の10%にあたる1MFの削減が見込まれる。
また本年中に特許商標のなくなる薬剤とそのジェネリック品の商品化(価格にして約0〜30%安)による経済効果として、1.2MFの削減が見込 まれている。(現在のフランスでのジェネリック薬品の売上が薬剤市場に占める割合は、約3%に過ぎない。)

 

また2001年度の医療費予算693.3MFに対し、疾病金庫予算は、3.6MFの赤字に抑えたいとしていたが、既に4月の時点で、対前年同月比で4.7%超過していることがわかっている。ちなみに、2000年度のフランス医療費は675.3MFで、6.1MFの赤字であった。

 

当然ながら政府のこの政策に真っ向から反論を唱えているのが、全国製薬産業組合SNIP(Syndicat National de l’Industries Pharmacetique)である。
ベルナール・ルモワンヌ同組合副会長は、「薬品発売認可後の経過フォローの必要性」「ジェネリック商品の推奨」に関しては、政府に同意したものの、「薬品価格の引き下げ」および「償還減率」に関しては、態度を硬化させた。(償還減率に関しては、政府と上記AFSSAPS協会とフランス共済保険連盟間の同意で、現行の償還率のマイナス10%と決められた。これは、穏やかな数字であるとしている。)
そして、「国民の高齢化を考えればフランスの医療費、薬剤費の上昇率は妥当である。」「薬品の開発研究費用を削られるこの政策により、フランスの新薬開発力は、実に世界第2位から7位に転落した。」「新薬発売認可が約8ヶ月遅れる結果となった。」とコメントした。 なお、昨年、フランスの302製薬企業の売上は、176MFであった。(そのうち輸出による売上は63MF) また新薬開発のための予算は、売上全体の11%と言われている。(ちなみに米国では、売上の約18%)

 

近年のフランス社会保障金庫財政で最も注目すべき点は、黒字分を、時短政策財源にあてがうようになった点であろう。
フランスの企業では本年(2001年)より、同賃金で週39時間労働から35時間労働へと時短され、ワーク・シェアリングによる失業対策がとられている。時短政策実施には、3.3MFが必要とされているが、この政府の財源転用には、MEDEF(日本の経団連にあたる。)、各労組の労使両側とも反対の姿勢をとっている。
理論上、「黒字が出た場合、翌年の社会保障拠出金は引き下げられる」となっているが、別目的への財源転用が行われるようになれば、その可能性はなくなりそうである。

 

2001年6月 日医総研海外駐在研究員 奥田七峰子