ワーキングペーパー
ワーキングペーパーNo. 338 2015-04-15
「ヘルスケアリート」の導入に関する考察
—医療・介護への投資マネー参入の問題点(投資論・制度論的分析)—
- リートは不動産証券化手法を用いて、不動産のキャッシュフローをできるだけ多く分配金として投資家に還元するための、 利益追求を目的とした「投資ファンド」であり、「金融商品」である。
- ヘルスケア施設の供給促進が求められる中、ヘルスケア施設に投資するリートがアベノミクスの成長戦略としてとりあげられ、 国土交通省を中心に導入促進策が進められている。
- ヘルスケアリートの導入推進は投資側の意向を踏まえたものであり、医療・介護側が望んだものとは言えない。
- ヘルスケア施設(特に病院)は一般の不動産には無いコストやリスクがあり、投資対象としてみて簡単なものではない。
- 施設のオペレーター側にとって、リート活用のメリットは小さく、デメリットが大きい。
賃貸コストは自己所有に比べ割高で、介護施設等では利用者の利益が損なわれる恐れも大きい。
様々な形で経営を縛られ、収益至上主義的な経営を要求される懸念がある。
資金調達のメリットは限定的で(特に病院の場合)、リートを積極的に利用する必要性は無い。 - 投資側のヘルスケア分野への理解には認識不足や不適切な考え方が少なくない。
投資側の期待リターンは現実の収益性に比べ過大であり、診療報酬等の「制度」リスクに対する認識不足の可能性がある。 - 国民皆保険や非営利性(特に病院)を土台とした我が国で、米国のような高いリターンが安定的に得られるとするのは誤りである。
制度・価値観等が異なる米国は「先行指標」にはならない。 - 公的保険財源(公的保険料・税)が「投資収益化」し、医療法人制度とも相反する懸念もある。
- 我が国のヘルスケア分野への投資ビジネス参入は好ましいものではなく、ヘルスケアリートは、オペレーターや施設利用者に十分配慮した 制限的な運営が求められる。特に病院に関してはリートへの強い歯止めが必要である。
【病院に投資するリートに関する主な提言】
- 病院に投資するリートは、病院の非営利性等を踏まえ、社会貢献型ファンドと規定する。
- リートの適切な監視等のため、病院に投資するリートは100%病院だけに投資するものとし、ファンド登録等も一般のリートと区別する。
- 投資家への分配金について、上限規制を設けることも検討するべき。
- 病院に投資するリートには、一般リートよりもさらに徹底した情報開示を義務付け、厚生労働省へも届け出ることとする。
- 地域医療への影響を鑑み、地域の医療関係者、患者・住民、行政当局のチェックのため、リート側が必要な情報開示を行うものとする。
- 利用者・患者の利益保護と適切な施設運営の確保、経営介入の防止等をガイドライン等で規定する(以下は例示)。
・賃貸料の長期安定の確認と何らかの制限(例えば上限)、・コベナンツ等の事前協議の義務化と厚労省への提出、・利益目的での医療サービス等の内容変更や他施設との集約・統廃合等の禁止、・オペレーターの意向を最大限に尊重した修繕や改築等の実行、・転売やオペレーター交代に関する規制、等
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